「はあ」



近頃、彼女がよく溜め息をつく。それは俺といるときも食事中も、昼寝のために甲板でゴロゴロしてるときも。どうやら、俺と一緒にいるときだけじゃないらしい(サッチに聞いた)。けど、俺に対する溜め息なのか…?と、不安と焦りを持つ自分がいる。ま、聞いてみりゃ早ェだろ。


「溜め息ばっかついて、どうした?なんかあったか?」


心臓バクバク。もし、俺の不満とかを言われたら、そりゃもう傷つくし…いや、でも、好きだからそういうのは直そうと思うし、さすがに…き、嫌いとかは言われねえと思うけど…んん…



「いや、なんでもないよ。大丈夫!」

「すげえ溜め息ついてんのに、どこが大丈夫なんだよ」

「うーん、ちょっとエースには言いにくいな…」



コレ来たんじゃねーの、コレ。「ずっと我慢してたんだけど、エースの○×なとこ、嫌いなんだよね」とか俺のダメダメなとこをすげえ言われそう。今まで、あんまり言われたこともなかったし、溜めに溜めたやつか…?あー、俺、泣きそうだ。



「マルコには言えんの?」


「うん…。マルコ隊長には言えそう…」



でも、これからも付き合っていきたいし、やっぱり聞くべきだよな。おなまえが言いづらいように、俺だって聞きづらい。だけど、聞いたほうが良いに決まってる!がんばれ、俺!




「俺に………話してほしい」


「……真面目に聞いてね?」



「分かった」



「最近、体が変なの」


「……は?」




身構えていたらこんなオチ。しかし、おなまえは恥ずかしそうに下を向いて自分の両手を握り締めている。ああ、そんなに強く握ったら、爪が食い込むだろ。俺は、その小さな拳を包んで解いてあげた。





「あのね、誰もいないのに声が聞こえたり、部屋で寝てたと思ったら船尾にいたり、なんか変なの」

「なんだそれ」

「ホントなんだからね?」

「ふーん」



何を言い出すかと思ったら奇妙なことを話し出したおなまえ。何言ってんだか。どうせ、部屋で寝てたと思い込んでただけだし、声の件だって船員が遊んでるんだろう。安心しきった俺は、勘違いじゃねえの?、と笑うとムスッとされた。




「もういい」

「なんだよ。怒んなくてもいいだろ」

「話せっていうから言ったのに、真面目に聞いてくれないからでしょ」

「だって、そんなバカみてーな話、真面目に聞けるかよ」

「だから、エースには言いたくないっていったの!」



おなまえは、起き上がるとお尻を払い、俺に目もくれず、足早に船室のほうへと入っていった。


今は甲板で昼寝寸前だった。けど、とてもじゃないが寝れるような気分でもない。ケンカ、したんだよな、俺たち。いや、俺が悪いんだろうけど、そこまで怒るようなことか?



今すぐ、素直に謝る気にもなれない。どうせ晩飯の時には、俺も謝れるだろうしおなまえも許してくれるに違いない。

今はここで、ゴロゴロして眠たくなったら寝よう。目を、閉じた。
























「エース!こんなところにいたのかよ!おなまえ知らねえか!!」

「なんだよ、うるせーな、知らねえけど、どうかしたのか?」






「おなまえ、船中探しても見つかんねえんだよ!」





「………は?」




血の気が引いた。







続く

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