朝、目覚めると、そこに昨夜の温もりはなく、ただ、白い掛け布団が俺を覆っていた。いるはずの彼女は、すでに腕にはおらず、引き戸の向こうから、トントンという規制の正しい音が聞こえてきた。





朝食を作っているのだろう。何かを、フライパンで炒める音も聞こえ、いい匂いも漂ってきた。


くあ、と伸びのついでに欠伸も出て、目を擦る。ベッドから出て、下着と高校のハーフパンツを履いてからカーテンを開けた。いい天気。寝室を出た。



「あ、おはよう、エース」




キッチンから声が聞こえれば、顔が覗いた。それは、紛れもなく、昨日の夜、何度も愛し合った大好きな女の、大好きな笑顔。




「おはよ」




ゆっくりと返事をして、なまえの元へ歩み寄る。ウインナーを炒めている後ろから抱き締め、いい匂いを吸いながら、首筋におはようのキス。


ぎゅう、と貼り付いて、体重を掛けると、エース、重いよ、と笑われた。





「おっきい赤ちゃんみたい」



振り向いて、おれの頬を突っつく。不貞腐れたように唇を尖らせると、その唇を人差し指と親指で摘ままれた。こうやっていつもおれを上手く操る。
悔しくて、その手を掴んで、唇にキスを落とせば、砂糖の味がうっすらとした。




「玉子焼き、美味しかったか?」


「あ、バレちゃった?」





平皿に、綺麗に切ってある玉子焼き。片端が無い。やっぱり食べたな。



「メシ食いてェ」


「もう出来るから、」



おれを離して、カウンターへ向かわせる。大人しく、カウンターに座って、立て肘ついて、なまえの料理姿を見ていた。


軽く後ろで束ねたゆるいウェーブのかかった髪。腕捲りから先に伸びる綺麗な手、指が皿に盛り付けを施していく。




「なに?そんな、じっと見て。なんかついてる?」


「綺麗だなァ、って」



「ウインナーひとつ、オマケしてあげる」



「やった」



そこにいるのは、他でもないおれの奥さん。もうすぐ、ママのことが大好きなアイツも起きる頃。おれは、そんな愛する小さな敵が来るまで、自慢の女房を見ていよう。








今は、俺だけの









ママおはよー!

起きんのはえーよ。お前もうちょっと寝てろ

ママ、あさごはんなにー?

てめェ、おれのこと無視すんな!



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