「わたし、財前くん食べたい」

「は?」

「だから、食べたいの。財前くん」


財前くんはわたしの目を見つめて無表情で、また、は?と言った。目を大きく開けるわけでもなく、いやがるような表情でもなく、ただ、純粋に無表情。


そういうところが食べたい要素なのも分かってない。落ち着いていて、何にも動じない。先輩たちの奇行にも驚くことなくツッコんだり、はたまたボケちゃったり、なんだろうね、この高1らしからぬ雰囲気?いいよね、グッと来る。帰りなんて、そ知らぬ顔でわたしを待ってたりしてくれて、送ってくれたりする。



「何言うてはるんすか?」

「やって、食べたいもんは食べたい」


のくせに、先輩たちに囲まれて楽しそうで、幸せそうに笑ってて…また、かわいいんだよなぁこれが。大人っぽいけど、やっぱり年下は年下。勉強の話なんて、わたしたちには着いてこれなくて若干むくれてる。きっと、財前くんが2年になったときは、わたしより完全に上をいく成績をとるんだろうけど。



「捕食対象なんスね、俺」

「うん、そうやで」



目の前が真っ青になったかとおもうと、わたしの頭にバサッて財前くんが財前くんのタオルを被せて、うん、なに?なんで?あ、そういえばいまは、部活の休憩時間。部員にドリンクを配って、10分休憩!との声がかかってから1、2分経って財前くんはこちらに向かってくるので、いつも最後なのだ。


タオルを取ろうとするわたしの頭をタオルといっしょに掴んで、まだわたしは財前くんだけでなく、なにも見えない。はなせはなせ



「あんまりからかうもんちゃいますよ、男は」

「?」

「俺やって、先輩のこと、いっつも食べたいし」

「!」

「我慢してるこっちの身にもなってみてほしいわ、ほんまに」




頭を掴んでいた手が離れて、足音が聞こえる、遠ざかる。なんだこれなんだこれ!なんだこれ!!財前にしてやられた!!



タオルを取れば、周りからのニヤニヤした視線。財前はすでにラケットを片手に、コートに戻っていた。もう!ばか!



食べかった



けど、これは食べられたというのか


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