財前は変態だ。汗を舐めたいだとか言ってくる。しかも、なんか知らんが、わたしの生理の日を当ててくる。それは、ポーチを持ってトイレに行く前なのである。生理になった朝、登校して、一発目に言われる。気持ち悪い。彼曰く「こう、雰囲気というかオーラというか空気が女やし、分かる」だと。変態だ。

アニオタだし、実はコミュ障。若干中二病のニオイもある。ゲームも大好き、機械も大好き。でも、成績はかなり上。外見は、長身でスタイル抜群、黒髪イケメン、耳にはカラフルなピアス。んで、テニス部のレギュラー。なんでこの人、わたしに興味あるの。気持ち悪い。


たぶん、アレか。自分のことをちやほやする女の子たちばっかりだったからか。わたしみたいに財前には興味ない女の子が珍しかったからか。いや、興味ないというか…ね。アンタは、わたしと違いすぎて端っからアウトオブ眼中。だって、財前もわたしなんて眼中に入れてないでしょ。しかも、マネージャーやってるとそんなことにイチイチ構ってられんよ。イケメンが何人いるとお思いで?一年でイケメンに耐性は付いた。だから、別になんともない。まぁ、そんなことを思ってたんですけど、よりによって、そんな財前に好かれてしまった。というか、なつかれてしまった。


わたしは、白石や童貞(謙也)に相談したけどまぁそれはどうにもできんからなぁと言われ、放置状態。小春にメールで相談したら、何故かユウジから"豚の分際で。しね"と返ってきた。次の日、ユウジにだけクソ不味いドリンクを作ると言うことでお礼をしといた。(効き目はあった。わたしの前にひれ伏せさせた)銀には聞いてない。どうせ、応えてやれとか言われそう。千歳は、トトロに聞いたら?と勧めてきた。アイツとは会話にならん。聞いたわたしが馬鹿だった。

こうやって、財前のこと。悩んでいる期間もずっとヤツは相も変わらず変態なのだ。わたしの使ったタオルは、ヤツのと交換させられているし、寒くなってきたからといって、部活の前に白石が買ってくれた大好きなココアは、一口飲んだだけだったのに、いつの間にか半分まで減っていた。




「俺、先輩のこと、好きです」


帰り道、コンビニを出ると薄情者たちは消えていた。なんかそわそわしてるとは思ってたんですよ。白石は、部活中ずっとニヤニヤしてこっち見てくるし、童貞は"俺もはよ追い付くから"とか言い出した。追いかけてこないでほしい。千歳は来てない。銀は"何かあれば話を聞く"、と。いや、それを今、わたしが銀に聞きたいんだけど、と返しといた。小春は、部活おわりに、"メイク崩れてんで"と教えてくれた。ユウジはそれを見て、わたしに"しね"と一言。明日覚えてろ緑。財前はというと、今日の部活では何も話しかけてこなかった。



財前は変態だ。けれど、いつも最後の片付けを手伝ってくれて、駅とは反対方向なのに、必ずわたしを家まで送ってくれて、部活中には"女が体冷やしたらアカンっすわ"って自分のジャージの上着貸してくれたりする。それを平気でやってのけるのだ。変態だけど、それさえも嫌がったことは一度だってない。気持ち悪いとは思いつつも、またかハイハイ、とスルーしてきた。いや、それが普通だったのだ。


夕暮れは待ってくれない。さっきまで、空の青と雲の白と太陽の赤が混ざってたのに、空はもう真っ赤に染まって、段々と夜に近づく。財前の後ろの空が綺麗。わたしだって、君のこと好きだよ。


「うん、わたしも好き」


コンビニの袋を持ってない方の手を、財前の大きな手にぎゅっと握られ、もちろんそれは恋人繋ぎで、あれだけ恥ずかしい変態発言や行動をしてきた財前が、今になって口に手を当てて、頬を染めているなんて、もう、ドキッとするしかないでしょう。






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