「なんで別れてまでみょうじと付き合うことにしたん?」

「ん?」

「ええ子やったやん。浮気とかしぃひんかったんやろ?しかも喧嘩もしてへんかったやん。ええ感じそうに見えてたんやけどなー」

「おん」





白石は、前の彼女と別れて、思いを寄せられてた年下の女の子と付き合った。

前の彼女とは、いい感じ。二人で帰る姿は何度も見た。朝、二人で仲良く遅刻してくるのも珍しいことではなかった。その子は、俺、財前、ユウジや小春に会ったことがあるが、愛想もよく、もちろん好印象だった。白石から悪い話を聞くこともなく、本当に、いいカップルだと白石がいないところでも話をしていたほどに。


それに比べて、白石が付き合うことにした年下の女の子…みょうじなまえとは、同じ学年の同じ学科の財前曰く、`いい子´ではないらしい。学科の女の子たちから、反感を買っている面もあるらしい。もちろん、いつも一緒にいるともだちはいるらしいが、みんなと仲良くできる、愛想もいい、前の彼女とは全く違うらしい。しかし、財前はなまえを割りと好きなほうだと言う。財前は、容易に人を認めたり、(恋愛的な意味とは限らず)好きになったりはしない。疑り深い性分だということだ。

そこまで彼女に魅力があるかと聞かれれば、俺には分からない。ただ、一度話したことがあるが、よく分からない女の子だった。人見知りしている感じはサラサラない。寧ろ、初対面の時の俺に対する態度は、一般の年下の女の子が先輩の男に対するそれでは無かった。俺の顔と体を舐め回すようにジロジロと数秒見て、「ふーん」と興味無さそうに白石に視線を戻した。


「俺、そんな良い印象無いねんけど」

「あー。まぁ、あの子はそういう子やしな」

「どこが好きなん?」

「俺が謙也に言葉で言ってもたぶん分からんと思う」

「はぁ?」



俺には言葉にしても分からん?

さっき自販機で買った水を開けて、ゴクゴクと飲んで、何かしらの通知で画面がついたiPhoneのロックを解除して、少し微笑みながら触り始める白石。


中学時代から聖書とまで呼ばれ、女の子からの人気も表せないほど絶大。それは、大学生になった今でも変わることはなく、思いを寄せる女の子は多い。サークルの昼食ミーティングの時なんて、お弁当作ってくる子もいるし、バレンタインだってやばかった。

どうしてそんな白石が、あの子に靡くのか分からない。外見は確かに美人。可愛いより綺麗なあの子は、どうやって白石を捕まえたのか。もちろん、白石は中身中心で女の子を選ぶタイプ。外見がどれだけストライクだったとしても、前の彼女に相当熱をいれていた白石が、外見だけで靡くはずはない。



「なんやそれ、気になるやん」

「んー。でも他になんて言ったらいいんか分からへん」

「……ふーん」

「あ」

「?」

「けど、最初に喋った時に、"もう、これはきたな"、って思ったで」

「なんで?」

「"白石先輩、貴方は私を、`必ず´好きにならはると思います。絶対。"って言われたわ」

「なんやそれ、こわっ」

「やろ?俺やって、怖かったわ。けど、なんかな、もうその時から好きになってもうてたんかな」

「暗示かい。こわすぎるやろ」





みょうじなまえ…変な女


















「お」「あ」


図書館での調べもの。医療関係の本を探していると、同じ本棚にいたのは、白石の年下の彼女。

やっぱり好戦的というか、こう、どこか怪しげな目。


「どうも」

「おん」



それだけ言うと、顔を本棚に戻し、また、本を選び出すような仕草に戻るみょうじ。彼氏の友達だというのに、愛想が悪い。悪いというか、愛想も何もない。居心地の悪い雰囲気。しかし、講義のレポートの参考にするための本を見つけるまで俺は帰れない。期限は迫っているのだ。







「忍足先輩って、わたしのこと、少なくとも良い印象は持ってないですね」

「…え、」



本棚から顔を逸らさずに、本を探しながら、俺に話を続ける。




「良いんです。あまり親しくない人は私に良い印象を持ってないことは分かってるんで」

「……まぁなぁ…」

「けど、わたしは忍足先輩のこと、かっこいいとも思ってますし、彼の友達として仲良くなりたいとも思います。」

「お…おん…」



彼女がこっちを向く。目が合う。探るように、目を細めて、そして笑う。視線が捉えられて、離せない。

しばらくの間があって、彼女は口を開いた。





「今のやり取りだけで、わたしの印象、だいぶ変わったんじゃないですか?」

「!………」

「本心ですから、仲良くしましょうね、謙也さん?」




白石が言うてたことを、この数秒で体験によって理解した気がする。この怪しげな目とすべてを理解しているような口振り。まんまとやられてしまった。悔しいほどに、彼女に振り回された。操られた。







言葉による感情操作



不思議と、嫌な感じはしない

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