「僕と踊りませんか?美しいお嬢さん」


「ええ、喜んで」





素顔を隠す"それ"は、人々の欲を引き出し、恥じらいを捨てさせる。








装飾なしの赤いドレスは、派手なドレスや飾りが入り交じった会場の中でも一際目を惹く存在感であった。周りの視線を自然と集めてしまう、けれど、周りにとっては近寄りがたいオーラを持った美しい女性がそこにいた。それもそうだ。自分を誘ってくる男をことごとく断り、誰かを待っているような様子で男女が入り雑じるきらびやかな世界を、ただただ傍観していた。黒いグローブにゆるゆると弄ばれているダークなロングへア。天辺には輝くティアラが置かれている。それはもう、綺麗で、もちろん高級品。




ーーーーー仮面舞踏会。




素顔が見えないからという理由がなんにでも使える場である。


遠くからでも、彼女とは目があっていたような気がしてならなかった。だから、















「ボーイフレンドは?」

「愚問ね。いたところで、もうあなたはわたしを手離さないでしょう?」

「よくご存じで」






目が合ったその瞬間、そこが一番大事。その時、"始まる"か"始まらない"かが決まる。




私の手を引いて、エレベーターへ。パーティーは盛り上がりを増している。今だって、もう音楽は小さく聞こえるだけ。壁際に追い詰められると、お互いから、キス。挟むように唇を食んでくる。角度を変えながら、もっともっとと求めてくるのに、わたしも負けじと対抗心を燃やしていた。彼の大きな手が、私の髪を掴む。もう片方では、肩の辺りに腕を回され、ずんずん、と引き寄せられる。


「…っは……ん、」



漏れる声と、火照る体。彼の腰に手を回し、キスを感じた。彼の鼻息も聞こえてくるほどに激しくなるので、耳からも感じてしまう。もっと欲しい。慣れたようなキスに、大人を感じ、着いていこうと必死になっていく。



エレベーターが止まったら、離れるのも惜しいように、キスしながら歩いて、器用に彼がルームキーでドアを開けた。彼のスウィートに入って、ドアを閉めたとたんその場でまた、深みへと嵌まる。強く頭を掴まれ、身動きは取れないけれど、それは、逃がさない、と言ってるような気も、した。




「……はぁ、っ」

「わ「謝らないで」








「はやく、」




ベルトの下、大きくなっているそれに、手を触れる。少し撫でると、また更に反応していた。彼を見れば、参ったな、なんて顔。でも決して嫌そうではない彼に、わたしは笑う。焦らすようにもう少し撫でて、ベルトに手をかけた。はっきり形が浮き上がってるボクサーをずらすと、威勢のいいそれ。



直に手に取れば、大きさは明瞭。

大人の余裕なんて、見せてほしくない。





「盛んなお嬢さんで」


「貴方が欲しいんだもの」




「俺だって」



ぐるりと視界が反転し、わたしは壁にもたれ掛かっていた。ドレスの裾をたくしあげられると、そこには羞恥。




「やるね、お嬢さん」


「なに?邪魔なものでしょう?」



「あぁ、その通り」





あるはずの"それ"がないそこに、ビックリしただろうけど、わたしは、今日はもう最初からそのつもりだった。体を倒され、所謂、"立ちバック"。指で確認されて、水音がしたらいけるサイン。彼を受けとめてしまえば、もう、おわり。






仮面の一夜




いいえ、ここからがはじまり。


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