「おかえりなさい」




面倒だった仕事の疲労感も、年下の彼女の一言と笑顔、美味そうな匂いの前ではすっかり和らぐ。



「ただいま」



今日は揚げ物か。


俺から受け取った、バッグは置き、スーツをポケットを確認してからハンガーに掛けてクローゼットにしまうと、急いでキッチンへ戻っていった。



パタパタと小刻みに聞こえる音は、なんとも愛らしい。



「今日も忙しかったみたいですね」

「まあな。ちょっとトラブルがあってな」

「お疲れさまです」

「ありがとよい。お前こそお疲れさん」

「ありがとうございます」





"お疲れさまです"、その一言で満たされる。嬉しい。

ダイニングテーブルのイスに座って、エースから届いていたメールを確認。しょうもないことだった。






良い音といい匂いが漂う。本人は真剣なんだろうが、すこし口許が緩んだままフライパンを握るなまえを、可愛いなぁ…とじっと見詰める。




付き合って3年。俺ん家に半同棲状態。あっちの家はありつつ、週3,4で俺の家にいる彼女。正直、なまえが来てくれてない日は、家に帰りたくない。だから、彼女には怒られるから秘密だが、ほとんどエースやサッチ、ビスタたちと飲んだりしてる。


風俗店などには行ったことがない。それに関しては、命を懸けてもいい。




「遅くなってごめんなさい。できましたよー」





暖かい手料理が机に溢れる。バランスも見た目もうまく考えられている食事。




こんなところが好きになったわけじゃあないが、入り浸ってくれるようになって、悪いところが見えるどころか良いところしかなくて、本人にそんなに気を使わなくていいと言っても、ツラいと感じたことはないとか言われるから俺もそれ以上なにも言えないわけで。



一緒に暮らすと冷めるだとか、全くなくて、寧ろ、更に好きになる一方。




それでいて、俺を好きと言ってくれる。疑う余裕なんてない。まあ、それについては少しシモい話になるので今は控えておこう。


俺の後ろから料理を運んで、皿の位置を整える姿を肘をついて見ながら、俺は意を決した。







「なあ」


「はい?」








「嫁に来てくれ」











「えっと……どこに?」


「他に行く宛があんのか?」





俺の顔を無表情でじーーっと見たあと、にんまりと笑い、首に抱き付いてきた。

こうなるとは分かっていたけど、その微妙な間はすごく不安で、やはり俺と彼女の年齢差を考えると、断られたらどうしようなんて柄にもなく弱気になった。


まあ、そんな不安もいつも何でも全て吹き飛ばしてくれるのが、嫁となる、この自慢の彼女であるわけで。





「マルコさんのお嫁さんになれるなんて夢みたいです!大好きです!」


「俺も大好きだよい」



「あの、ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

「あぁ、よろしくな」



まずは、オヤジに報告しなければ。いや、彼女の両親に挨拶に行くのが先か。

それから、オヤジに報告して、「生きてるうちに孫の顔が見れるな!グララララ!」なんて笑われて、エースは俺も早く結婚してえとか羨ましがられて、サッチには飲み仲間が減るだとか残念がられて、ビスタには「やっと言ったのか、遅かったな」と馬鹿にされて、でも、みんな祝ってくれるはずだ。







「なまえ、幸せにしてやる」

「ありがとうございます。でも、」

「でも?」

「わたしも、マルコさんを幸せにしてあげます」





「…言うよい」






キスの後、笑って笑って、喜びに溢れた食卓。そこに、もう一人増えて、騒がしくなるのは二年後のこと。









ひとつになる



(寿退社?!もしかして、会社のナンバー2にプロポーズされたの!?)
(う、うんっ)
(おめでとう!!!)
(ふふっありがとね!!(もう幸せだなぁ))
(顔の筋肉緩みすぎよ、アンタ)
(はっはい!!!)

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