仁王くんはうざい。いつでも女の子と付き合ってるし、それなのに他の子ともあんなことやこんなことしちゃってるらしくてチャラいし、なにあの口調。地方出身でもないくせに。やたら課題見せてとか言うし、問題教えてとかうっとうしい。それに、なんだよあの髪。切ればいいのに。それで、また髪の毛くくったら、女の子が騒ぐし、なんなわけ?あんなんのどこがいいの?


「試合見に来んか?」

「行きません」


わたしごときが見に行かなくたって、他にもたっくさんの女の子がいるでしょ?しかも、他校の可愛い可愛い女の子たちも、イケメン強豪テニス部を見に来る。うん、確かに、柳くんは、かっこいいよ。目ないけど。あと、幸村くんもね。けど、それが仁王は二番目に人気があるなんて、ちょっと笑わさないでよ、って話ですよ。

人が多いところなんて大っ嫌い。何度も断ってるのに、うっとうしいな。何回言ってくるんだよ、もう。「ねぇ、仁王くん!今度の試合応援しにいくからねっ!」「おー、ありがとさーん」ほら、いるじゃない。背が高くて、スタイルのいい美人なタナカさん。

「ちょ、どこ行くん」

「トイレ」

「おれもいく」

「はぁ?」

意味わからん。なんでわたしに着いてくる。トイレの入り口までなのに、なんなんだよ、こいつ。ものスッゴい引っ付いてくるし。きめえ


いつも、女の子のおっぱいばっか見ちゃって。それに、話しかけられたら、だらしない顔でへらへら笑うし、嘘なんていくつ吐かれたか。休憩時間にわたしの隣に勝手に座って、そこで愛の告白を受けてることもある。あれは、正直、気まずい。なにがって、その子が少しばかりの友人だったときが一番気まずい。いや、わたしフォローなんてしないよ?付き合ってあげたら?なんて言わないのに、そう、期待してる子もいるんでしょうね。言うわけないでしょ、めんどくさい。それに、わたしはもうそんなことに、興味がない。授業の合間は勉強、お昼はお弁当に集中してるのです。


「トイレとかうそじゃろ」

「うん、目の保養しにいく」

「参謀か」

「そうだよー。いつもは老け顔と悪魔様がいるけど、木曜のこの時間だけは一人で本読んでるの、柳くん。」

「……」

「あ、いたいた」


仁王はだるそうにわたしの後ろをついてきてるけど、だるいなら帰れよ。柳くんは本に視線をおとして、綺麗な長い指が、ページをめくる。エロい!







「やだ」

「は、なに?」

「やだ、って、ゆうとんじゃ」


後ろから手を引かれ、ぎゅう、て抱き締められた。おい、仁王の匂いがつくでしょ。やめてよ。アンタは、いつも女のニオイがする。甘い香水、さわやかな香水、混じってて嫌いなの。それに、廊下で、アンタが女子にこんなことしたら、悲鳴でいっぱいになるでしょうが。うん、もう、なってるんだけど。そうなったら、柳くんだってこっち見るじゃん。まぁ、仁王の腕のなかだから、顔は見えないし、わたしのことなんて分かりはしないだろうけど。



「はなして」

「やだ」

「いみがわかんない」

「1つしかなかろ」

「はいはい。どうせ、他の子にもたくさん言ってるみたいに、"好きじゃ" とか言うんでしょ。」

「言わん」

「ふーん。あ、そう」

「そんなん怖くて、よー言わん」


「…は?」



仁王の心臓がどくんどくんって速く鳴ってるのが、わたしにも伝わってて、苦しい。なに?こわくて言えない?なにが。



「なまえのことが、ほんまに本気で好きじゃけん、他の女の子に言っとるみたいに、かるーく、好きじゃ、とか言えんもん」


「ちょ、なにそれ」



きつくきつく抱きしめられて、周りの目は嫉妬、好奇心、絶望、などたくさん。携帯だって構えられてる。こんなとこで、こんなことするからわたしは、仁王なんてきらいなんだよ。こんな状況で、やめてよ、なんて言えないじゃないですか。




きっと、
君がきらい



「大好きなんじゃー!」

「ちょ、!うるさっ!」


珍しく大きい声を出した仁王。廊下がわいわいうるさい。いや、ざわざわ、ですね。確実に。別に喜んでませんし、わたし。


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