どうしてこんなことになってしまったんだろうね。いつからこんなことになってしまったんだろうね。


わたしたちは、京都の名門、洛山高校に進学した。
貴方は、赤司征十郎。元帝光中バスケ部キャプテンであり、曲者揃いのキセキの世代をまとめあげてきた貴方は強い。余裕そうな瞳に涼やかな表情。

けれど、貴方は貴方じゃなくなったのかもしれない。いや、貴方はもう一人増えたのかな。


勝利にこだわる精神と、ストイックな性格が合間って、部の方針を百戦百勝と掲げたあの頃から少しずつ、何かが傾いていたのかもしれない。


数えきれない退部届、部活後に自主練をする部員は確実に減っていった。疑問などなかった。彼にもなかった。勝利と天秤にかけたものは、数多の仲間だったが、彼にとってそんなものどうでもよかったのだ、きっと。


征十郎はいつでも前しか見ていなかった。下も、後ろも、上も見ない。自分より上はいないし、下にいる者には興味がない、 振り向いて、後ろにある沢山の勝利はもういい。それであって当たり前なのだから。


そんな性格や考えを、理解でき、指示する人はそう多くはいない。試合に出ることもろくにない2軍3軍なんて、征十郎の、気持ちなんて分からない。沢山の部員が辞めていった。征十郎は引き留めなかった。わたしだって引き留めなかった。征十郎が何も言わないのだから。彼は、どれだけ自分を否定されようと、妬まれようと、絶対にチームを勝利へ導くことだけは怠らなかった。それに、あの日まで、5人は征十郎から離れなかった。


もちろん初めからそうだったわけではない。ただ、バスケが好きで、いつもPGとして指示を出し、自分のチームで勝ちたくて練習してきた。そうするうち、いつの間にか敗北を味わったことがなかったと気付いたのだ。



征十郎の背中はいつでも偉大で尊厳性のあるものだった。その背中に着いていくのではなく、その肩に手を置き、自らも肩を並べる、そんな5人がいた。征十郎自身もそれでよかったんだと思う。完璧なキャプテンシーを備えた赤司くんの、見事な指示は誰にも文句を言わせなかった。



征十郎、泣いたっていいんだよ。




いつからか自分の首を自分の手で絞めるようになっていった。自分の信じたようにやればいいんだよ。どうしてそんなに苦しそうなの?少しは笑ったっていいんだよ。勝利を背負わない貴方だからといって、誰も笑わないし、嫌わない。強くあり続けなきゃいけない理由なんてないよ。だってチームなんだよ。貴方だけじゃない。敗北を分ければいいじゃない。



「何を言ってるんだ?」




ほらね、そんな冷たい瞳だって、見たことなかったのに。


「わたし、征十郎がこわいよ」

「そうか」

「でも」


血みたいに綺麗な髪も、その冷たい手も、あの頃とは違うその瞳も、ぜんぶわたしは受け止めると決めたの。こわくても、あなたから離れない、


「征十郎を、この手を、絶対に離さないから」

「…あぁ」



影が傾く。夕日は、空の色を変えてゆき、同時に肌寒さを連れてくるのだ。


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