「先輩、手伝いますよ」

「?…あー、いいよいいよ、もう終わるし。シャワー浴びなよ」

「これ重いし、運ばせてください」

「ありがとねー」

「…先輩は女の子なんだから、ちょっとは頼ってください」

「はは、さすが氷室」




笑いながら俺と視線を交わすなまえ先輩。部員は多いけど、マネージャーは一人。一年が手伝うこともあるけれどもう終わりそうだと思ったのか、体育館に残っているのは、窓を閉めにいった一年数人と、俺となまえ先輩だけ。



「最近、更に調子いいね、氷室」

「なまえ先輩のサポートのお陰ですよ、ありがとうございます」

「なにを言ってんだか」



俺は重い箱を、先輩は一つ残っていたボールを、同じ倉庫に運ぶ。

先輩がボールをポイっと放れば、狙い通りのところに入って、俺が箱を奥の棚に仕舞いに行くのを待つために、体操部とかがたまに使う分厚いマット(棒高跳びとかの後ろにあるやつの室内用かな?)に座っている先輩。





「先輩って、好きな人いるんですか?」

「あ、その質問この前も聞いたよ」

「で、どうなんですか?」


「どうかなぁ」



またはぐらかされた。何やら本当に色々なものが入った箱を、棚の一番上に置こうと腕を伸ばすけど、こんなもの、一人で運ぼうとしてたのか。なんて考えると、やっぱり先輩は頑張りすぎだと思う。


「氷室、運んでくれてありがとー」



俺に届くようにお礼を言ってくれた先輩。戻りながら、ぽふん、と音が聞こえたと思ったら、先輩がマットに倒れていた。うちの部は強豪と言われるゆえ、もちろん練習も厳しい。それに、あの監督だ。妥協は許さない。もちろん、マネージャーだって忙しい。ドリンク作りに、怪我の手当て、洗濯に備品発注、うちの選手はもちろん、他校の分析。それを一人でやってこなすのだ。疲労はたまってるに決まってる。





「疲れてますね」

「まあ、氷室たちほどじゃないよー大丈夫〜」

「……」



なんでこの人はこんなにも、自分よりも他人を優先的に考えているのだろうか。大変なはずなのに。






だから最近、好きだなぁと、よく思う。




「!ひ、氷室?!」

「なまえ先輩、俺だって男ですよ」

「ん?意味わかんないんだけど」

「好きな女の子が、こんな無防備だと、ちょっとやばいです」



俺がもう使わないからと言って先輩にあげた薄手のバスパンが、少しまくり上がって白い太ももが見えそうになっていた。いや、ちょっと見えてるんだけど。我慢してはいるけど、やばいので、腰のあたりを跨ぐように膝をついて、上に乗って、こう、押し倒した感じになってみた。



「は?す、好きな女の子?!」

「そうですね。好きな先輩、好きなマネージャー」

「……わたしか」

「この状況で違う子のことなんて言いませんよ」



びっくりした様子の先輩は、俺の気持ちになんて全く気付いていなかった様子。先輩をいくら困らせても、それでもこの気持ちは伝えたかった。……こんなタイミングとは予想だにしてなかったけど。


「キスしていいですか」

「!……んっ」


答えなんて聞かずに、そのまま口づけたけど、先輩は抵抗もなにもしない。なまえ先輩の顔の横で、手を握りながら押さえて、決して深くない、触れるだけのキス。


唇を離して、目を見ると、言葉を待っている好きな女の子の顔。ああ、可愛くていじらしい。手に入れたい。俺だけのものになってほしい。


「好きです、なまえ先輩」

「わたしも」



今度は、食むようなキスを繰り返していると、決して綺麗でも美しくもないけど、とても素敵な小さな頑張り屋さんな手が、俺の手を握り返してくれた。





告白をされる


(せんぱーい!…あれ?さっきまで、氷室先輩とマネージャーいなかったっけ?)
(確かいたはず…てか、氷室先輩となまえ先輩ってお似合いすぎるよなぁ付き合ってねーのかなぁ)
(俺もそれ思ってたわ。どうだろーなぁ)


「嬉しいこと言ってくれるね、1年」
「先輩。俺、先輩と近すぎて、ほんと、あの、もう、色々とやばいんですけど」
「(いつもの余裕はどこに…?!)」



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