「殺してください」




マルコ隊長、と弱々しく呼ぶ声に振り向くと、生気のない目がおれを見ていた。目はすでに死んでいた。少し痩せた身体と、ツヤを無くした肌。おれの知っているなまえは、いつもニコニコしていて、ポジティブで、逆境でも何のその、先陣切って立ち向かって行くようなヤツ。エースの処刑が決まった時も大丈夫ですよ!とみなを励まし、奮起させていた。
けど、目の前の今のコイツは、全くおれの知らないなまえ。


「何言ってんだよぃ」


「エースが死にました。パパが死にました。太陽と月を失いました。光がありません。生きていく理由も目的も糧もありません」



返す言葉が、思い浮かばなかった。




先のマリンフォードでの一件で、エースは赤犬…大将サカズキによって、殺された。大罪人として、処刑は決定していたが、エースの弟ルフィやおれたちでエースを奪還しようとした、が無理だった結果だ。オヤジも死んだ。



なまえにとって、エースはおれたちとは違って、歳も近いせいか、仲の良い兄妹みたいなもんだった。いつも二人で笑ったり、たまには喧嘩したり、よく仲良く言い合いをしていたのを覚えている。エースがティーチを追うために船を出るまでは、二人で一つみたいに一緒にいた。


なまえにとって、オヤジは恩人。正しい道に導いてくれる人。道を照らしてくれる人。悩んだ時は、決まりきってオヤジに相談していた。オヤジは、たった一人の末の愛娘を大事に大事にしていた。

小さな島で、エースが両親を失ったなまえを見つけ、モビーに乗せたのは他でもないオヤジだ。



ふたりがいなければ、確実になまえはここにいなかっただろう。



「死んで、それからどうする?オヤジたちに会いたいか?」

「はい」

その瞳は、まっすぐにおれを掴んで離さない。戦闘中に見せるその覚悟を決めた顔は、嫌いではなかった。



「それじゃあお前を殺せねぇよぃ」



「なんでですか!!!」



「なんで来たんだって、お前殴られるだろうな」

「…っ」




泣きてえよ、おれだって。行きてえよ、オヤジたちのとこ。けど、オヤジが命張って守ったきたおれたちがそんなこと出来るわけねーだろ。そんなことして、オヤジが喜ぶわけねーだろ。おれらは、オヤジがいなくても、大事な仲間がいなくなっても、前を見て歩くしかねぇんだ。海賊になるって決めた時、モビーに乗るって決めた時に、そう覚悟させただろ。お前は意味がよく分かってなかったかもしれねぇけど、それはそういうことだ。あれは、今のことだ。






二歩ほど足を踏み出して、なまえの胸ぐらを掴んだ。女だろうと、妹だろうと、今は関係ねえ。こういうことは、オヤジの役目なんだ。おれがやらなくて、他の誰がやるんだ。おれたちの、大事な大事な1人娘なんだ。

ちゃんと、守ってやらねぇと、オヤジやエース、ほかのヤツらが報われねぇだろ。





「何があっても、オヤジを裏切らねぇんじゃなかったか?どこまでも、オヤジのもとでオヤジのために、その命は、お前は、生まれ変わったんじゃねぇのか」

「…」

「死にてぇとか、生きる意味がねぇとか、殺せとか、二度と口にするんじゃねぇ」


「…ごめんなさい」



泣き出したなまえの胸ぐらを掴んだ手を離し、今度はその小さな体を、包むように抱きしめてやると、わんわんと泣き出した。本当は、オヤジたちが死んだことを認めたくなかっただけなんだと思う。二度と会えないことを信じたくなかった、戻ってこないなんて思いたくなかったんだ。


もう、会えない。二度と会えない。
残された者がすることは、先にいっちまったヤツらを追いかけることじゃねぇ。ヤツらの思いと共に、生きていってやることだ。

だから、おれはお前を守らねぇといけない。


背負う


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