最近、なまえの様子がおかしい。変だ。



俺となまえは、同じ部署の隣のデスク。呑みに行ったりもする仲で、宅呑みだってしたことある。自分のなかでは、勝手に、彼女のことを"親しい同僚"と位置付けているくらいだ。この俺が。

毎日顔見てるし、メシにだって頻繁に行く。憎まれ口だって叩けるし、きつい冗談も言い合える仲。
彼女の一喜一憂する姿すべてを見てきたんだ。そわそわしてるのもすぐにわかる。プレゼンの日なんて、見れたもんじゃない。




そんな俺が

気付かねぇわけがねーんだよ。





あいつと部長のあいだに、なにかがあったかは予想がつく。酔った勢いで部長に襲われた、その辺だろ。今は、このことを事実として確認していないために冷静でいられる。
けど、これが、本当だとしたら、俺はとりあえず、部長を殴る。殴るで済んだらいい方だ。それでクビになるはずなんてない。会社にとって、俺は必要な人材だからな。仕事は速い、生まれ持ったこのルックスと話術、頭の回転の速さのおかげで、俺が取り付けた取引先も多数。円滑な仕事が出来ている。




どうしてこんなにも頭にきているか、その理由はたった一つしかない。
ただ、俺がアイツを嫌いじゃないから、それだけだ。




きっと本人は、自分が分かりやすいだなんて思っても見てないだろうな。ちゃんと隠せてる、いつも通りだよね、とか思って過ごしてるんだろうが、大誤算だ。全然隠せてない。俺には見え見えすぎて、もうなにがなんだか。














「なぁ、お前、どうせ今夜も暇だろ?」

「う、え、ちょっと!失礼!」

「で、暇か暇じゃねーのかどっちだよ」

「暇です」

「呑もうぜ」

「うん、いいよー」



知らなくていい、お前は。俺が、何度なまえを襲おうとしたかなんて。酔った勢いで、なんて何度考えたか。酒に呑まれたお前を、何度、ホテルに連れていこうとしたか。隠された服の中や、俺の下で喘ぐ、エロい姿を幾度となく想像した。



けど、実際にできるようなものじゃない。触れられる距離にいるし、実際触れているのに、自分の欲望のままに、本能のままになんて、その先の行為になんて、進めるわけがない。どんなに寝顔を見ても、触れることは許されないと思えたし、浅はかで背徳的な願望とその時の感情に任せた行動で、傷付けたくない。










嫌いじゃない。



ずっと、そうとしか思ってなかった。





「んー、生中ふたつ!」


適当な飲み屋。目の前で、薄いカーディガンを脱ぎながら、いつものようにとりあえずの注文をしてくれる彼女。
透けそうで透けないブラウスの膨らみに、そりゃあ目はいくわけで。




それ以上でも、それ以下でもない




「あれ?ロー、新しい時計してる!」


「ん?あぁ、これか。最近買った」



「いいじゃん、かっこいい!さっすがー!」




無邪気なその笑顔だって、人懐っこい瞳だって、すぐに触れる指先だって、全部、俺に向かってればいいのに。俺だけに。



そんなことは無理だと分かっているけど、できるだけ俺のものにしたいなんて思うあたり、俺はかなりなまえに惚れ込んでいるんだと思う。




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