プライベート用に連絡しても、かけ直してくれることは一度もなく、完全に仕事だけの関係になったんだろう。会社では、業務的な会話はするし、部長も普通だ。前に戻っただけ。事が起きる前に。 「なぁ」 「んー?」 「今日、飲みにいくぞ」 「うん、いいよ」 予定はない。二つ返事で答えると、ローはまたパソコンに向かった。 シャンクスさんと言う縛りっていうか、大きな悩み?が無くなってから、前に戻ったはずなのに、少し違う。ローには、どのみち無理だったと言われ、シャンクスさんには、何も無かったかのように接せられ、わたしも感じていた虚無感とか詰まっていたものがスッと無くなった。けれど、虚無感は無くなったものの、やっぱりまだモヤモヤは残っている。なんだ、この、ずっと前からあるモヤモヤ。 良くないことだったのだ、わたしにとって、彼と関係を持つことは。それに、シャンクスさんが婚約したと聞いたとき、わたしは素直に祝福した。そして、婚約、結婚などの話を聞くたびに頭を過るローの顔。いやいや、なんだそれって毎回思うんだけど、毎回浮かぶ。入社以来、仲が良いからって今さらだよ、って思う。けれど、ローにはひどいことを言われたりするけど、なんだかんだわたしのことを考えてくれてるし、優しいとこもあるし、意外にも動物や小さな子どもに優しいし、あ、それに、仕事も出来るし、結婚したらいい旦那さんにはなりそうだけどな。 と思いながら、コーヒーをすする。 「送ってくれてありがとね」 「毎回だけどな」 「そうだけど…いつも酔ってて言ってないでしょー?だから、たまにはね!あ、水道水でもいい?今、無いの」 「構わねぇ」 「んー」 飲んで、送ってもらった帰り。今日はあんまり飲んでないから大丈夫だけど、いつもみたいに送ってもらって、ローがお水欲しいって言うから部屋に上がってもらったとこ。コートをソファに掛けて鞄もいっしょにソファに置いて、グラスに水道水を注いでいたら、後ろから抱き締められた。もちろん、ローに。 「わっ…何して、」 「なぁ」 「なっ………なに?」 「好きだ、ずっと前から。なまえのことが」 抱き締める腕に力を込めて、耳元で、呟かれる告白の言葉。 なんだろう、この感じ。ずっと待ってたみたいに、 シャンクスさんに、"俺かローか選ぶとしたらどうする"って聞かれた時、迷いなくシャンクスさんを選んでしまったこともある。それに、この前、ローに無理矢理キスされたときだって、彼の顔が頭に浮かんだ。 なのに、今はこんなに安心するように、心のモヤモヤが無くなっていく。そうか、わたしはローが好きだったんだ。シャンクスさんにいろいろされるようになって、そっちばっかりに気がいってたけど、ローはいつも変わらずわたしを見てくれてた。それに、シャンクスさんがわたしを好きだなんて一度も言ったことがなかったし、今、わたしがローに抱く気持ちと、シャンクスさんに抱いていた気持ちは全く違う。 シャンクスさんに、ローはお前がすきだ、って言われたとき、すごく動揺したし、シャンクスさんから聞きたくなかった。けれど、それはシャンクスさんが好きな人だからじゃなくて、ローから聞きたかっただけなのかもしれない。 自分のことが本当によく分からない。シャンクスさんが好きだったんじゃないのかよ、自分。と思うけど、ローから告白されると、こんなに涙が溢れるほど、嬉しいのだ。 ← top → |