拍子抜けな音が鳴った自動ドアを抜け、レジに彼女がいることを確認。今日もいつもと同じブラックを手にして、あえて彼女のいるレジへ。



「いらっしゃいませ」



スラックスのケツから財布を出していると、俺は頼んでもいないのに彼女は、27番の煙草を出してくれる。今日は言ってないのに。これは、おれのことを覚えていてくれる印だよなァなんて、ちょっと、いや、かなり嬉しくなる。


そんな無自覚な"苗字"さんには、意地悪したくなってしまうわけで。




「…煙草、頼んでねェけど」


「え…?………あ!」




今気付いたらしく、顔を真っ赤にさせて急いで煙草を27番に返す"苗字"さんの腕を掴んでみた。自分から触っちまったなー。ああ。かーわいいなァ…なんて、呟きそうになるが落ち着いて、ぐっと堪える。



「いいよい、タバコも買う」


「す、すみません!!」




がっちり固まってしまった彼女は、おれを見て目をぱちくりさせている。ちなみにおれも彼女の目を見ているため、目が合った状態で数秒。久し振りに、胸の高鳴りを感じ、それでもポーカーフェイスは保ったまま。



はっとした彼女が、あ、あのっ!と離してほしいと言いたげに、目を泳がす姿に少しショックを受けながらも手を離して、もう片方に持っていた財布から、いつもと同じようにお釣りが出るようにお金を渡す。




「いつもお疲れさん」

「え?…わ、わたしですか?」

「他に誰がいる?」

「あ、いや、その、…そちらこそ、」




レジの操作の邪魔になるとは思いつつ話しかけてしまう。手を止めて、いちいちこんなおっさんに反応してくれて笑ってくれるあたり、いじらしくてしょうがない。



「ありがとうございました」

「明日も来る」

「…おねがいします、」




話ができたことにテンションが上がったおれ。そして、"苗字"さんから渡された白いレジ袋片手に店を出た。











それから、三日。変わらず、出勤前にあのコンビニへ行っていても、あの日から、彼女に会えていない。




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