「460円のお返しです」







お釣りを渡してもらうときに、いつも触れるその指。

だから、絶対に買った金額ちょうどには出さない。お釣りをもらわないと彼女に触れてもらえないから、おれはいつもそうしてる。



缶コーヒーを持ち、その店員の待つレジへ行く。

"苗字"と書かれた名札を付けた彼女。



さすがに、一週間毎日、同じ缶コーヒーと「27番」の煙草を買っていると覚えられるのかもしれない。今日は、もはや番号を言うと同時に、27番に手が伸びていた。


そして、さっきまでおれに熱視線を送ってきていたくせに、いざ会計が終わると、淡白にありがとうございましたーと一言。何なんだ。その、態度の変わり様が気になるところだが、おれは大人の余裕を見せるためにスッと出口へ。





気にしてなんかいない。断じて気になるとか、無い。違う。







一週間前からいるその、"苗字"さんは、ナチュラルメイクに、ダークブラウンには本当にゆるいパーマがついている。口角はいつも上がっていて、ハッキリと美人とは言えないが、一言で言えば"優しそう"で。会社でみる女の子たちに比べて、少し幼い顔がやけに頭から離れない。




柔らかな物腰と視線に、朝から気分がいい。

ブラックの缶コーヒーを取りに行くおれを、レジからずっと見ているのも分かっているので顔の筋肉が少し緩みそうになるのを堪えて(あんな若い子にじっと熱視線を送られて嬉しくない男なんていない)、気付かない振りをして平然と出勤前のサラリーマンを演じる。








昼休憩の会社の喫煙ルーム。



今日もかわいかったなァ…彼氏いんのかな、なんて、 思い始めてしまったら、彼女のことが気になると認めているのと同じだ。




おれが、あんな若い女の子に掴まれちまってるだなんて、バカみてェだな。



ま、それも悪くないか、と思う自分が嫌いじゃない。

煙草をグリグリと灰皿に押し付けて、明日は煙草買わないでみようか、と彼女にへの意地悪を企んだ。










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