「早く着きすぎたよね、、」

額に滲む汗をハンカチで拭きながら、どう時間を潰そうか考えていた。



今日は、デートの日。バイト先の先輩からもらった写真展のチケットを理由に、ついにマルコさんをデートに誘えた。(というか、デートに誘いたい私がもじもじしてるのを見兼ねてマルコさんから誘っていただいた、のかな)

朝から、いや、昨夜からそわそわドキドキして落ち着かず、目覚ましよりも2時間早く起きてしまった。何してんの私。そんなんじゃ、実際会った時もたないよ。服は昨日の夜決めようと思ったのに、決められなかった。結局、朝早く起きて、悩む時間があってよかったと思う。あんなに大人な人とデートするのは初めてだから、何を着ていいか戸惑った。結局、暑いだろうからノースリーブニットに、膝下くらいまでのAラインのスカート。いつもより少しオシャレしてみた。



マルコさんは、どんな感じなんだろう。



いつもスーツしか見てないから、こういう土曜日のプライベートな格好が想像つかない。久々の誰かとのデートに、超緊張してる私に比べたら、マルコさんは全然なんだろうな、落ち着いてるんだろうな、いつもみたいに。そういうところもかっこいいなぁ、なんて胸が高鳴る。


写真展がある商業施設は、近代的なデザインの建造物。中には、お洒落なカフェや高級そうなレストランも入っている。外で待つには暑いから、緑の近くにあるベンチの座って待っていようかな。

♪〜

『もしもし、俺だけどよぃ』

「マルコさん!おはようございます!」

『おはよう。元気だな。名前ちゃん、もう着いてるよな?』

「え、あ、はい」

『小さいイタリアの国旗がある店わかるか?』

「え、国旗、国旗…ありました!」

『コーヒーがうまい店なんだ。飲まないか?』

「飲みます!」


電話が切れると、胸がドキドキするのが聞こえてきた。














早く着きすぎたので、車を駐車場に止め、たまに出掛けた時に寄るイタリアンでコーヒーを飲んでいた。



頭の中は、彼女のことでいっぱいで。どんな服着て来んのかな、とか、今日も可愛いんだろうな、とか、柄にもないことばかりが浮かぶ。おれ、ほんとどうしちまったんだ?
名前ちゃんと出会ってからというもの、会ってない時は1日1日が長く感じて、一緒に過ごせている時は一瞬に感じてしまう。エースやサッチに、冷やかされることはもちろん増えたが、事実なので特に何も返さないでいると、2人も少しずつ諦め始めた様子。



というよりも、おれがただ遊んでるだけではなく、彼女とのことを真剣に考えている、と気づいたんだろう。




恋愛なんていつぶりか。

もちろん最初は、「珍しい可愛くて若いバイトいるな」くらいだった。(おっさんかよぃ)よくある、流れ作業のような接客ではなく、誰に対しても目を見て話をしてたり、何か探してる客には自分から声をかけたり、常連のお年寄りにはたわいもない話をしたり、客のタバコの番号を覚えて、注文されてないのに出してしまったり。そんな姿を見て、擦れてない、とても思いやりのある素直な子なんだと感じた。



もちろん、仕事の付き合いでたくさんの女性と出会ってきたが、素直や思いやりを感じたことはあまりなかった。地位や金目当てか?営業か?と感じたこれまでに比べて、名前ちゃんの言葉は信用できる、そして、傷ついて欲しくない、という気持ちが膨らむ。


大事にしたいってこういう気持ちなんだろうな。



このおれを、優しい気持ちにしてくれる彼女を思いながら、コーヒーを啜っていると、店の外に知っている姿が見えた。



「ああ。可愛いなァ」



電話をかけた。


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