「マルコ、ああいう子がタイプなんだな〜」

エースが「おれも年だわ、次の日がしんどいわけよ」と言い出したので、タバコを買いに行くついでだった。明日は朝から出張のサッチも、ウコンがいると言い、3人で出て来た。エース、お前が年だとか言いだしたら、おれらはどうなるんだよぃ。


会社の近くのコンビニといえばここで、もちろん期待してたわけで。けど、その反面、こいつらといる時には会いたくないとも思った。
やはり、いざ同僚(というか仲間というかなんというか何者だこいつら)と来てみると、彼女に会うのが小っ恥ずかしくなった。見渡しても姿が見えず、少し期待はずれ、しかし安心、したのも束の間、エースが話しかけた店員が彼女だった。隠れるようにして、去ろうとしてるところで、おれは反射的に目を向けてしまった。なんでかって、彼女の声が聞こえたから。


"タバコ覚えてくれてる子"

咄嗟にそう言葉にしてしまったけれど、完全にこの前話してたのが、この子のことだとバレている。コンビニの店員だとか、大学生だとか詳細は全然伝えていなかったが、絶対にばれた。彼女が、俺にとって何者なのか、名前ちゃんのいる目の前で第三者に聞かれて、どう答えたらいいか分からなかった。ポケットに入れていた手の感覚がなくなった。どこを見ていいか分からなくなったし、どこを見ていてもどこも見ていないような感覚も覚えた。動揺ってやつだと思う。

「うるせぇよい」
「まあ照れんなよ!」

こういう時、サッチは厄介だ。こいつは、気が利かねぇから少し気になることがあれば、自分がスッキリするまで聞いてくる。鬱陶しい。おれが秘密にしてえんだよ。


コンビニへ向かった時はすでに定時を過ぎていたので、オフィスに戻ると、従業員は数えるほどしかいなかった。幸い、おれたちに回ってくるような業務はないらしい。役員のおれは、個別の部屋があり、サッチとエースのたまり場である。(よく言えばコミュニケーションの場)


「オヤジと飲むの久しぶりだわ、そういえば」


エースは、こういう点に関しては、あまり首を突っ込んでこない。モテる男は、人の色恋に世話を焼く野暮ったさを知ってるんだよぃ、サッチ。モテねえ奴にはわかんねぇかもな。


革張りのソファーに腰をかけ、ガラス張りの窓の外を眺める。
少し悲しそうな顔をした名前ちゃんの顔を思い出した。恥ずかしさから、気の利いたことを言えなかった自分に腹が立ったし、彼女の前で余裕がなくなる自分がもどかしい。彼女を助手席に乗せた時も、海で無邪気な姿を見た時も、彼女と愛らしさとは不釣り合いなコンビニの制服姿でニコニコと喋っている時も。なんとなく、おれがおれじゃなくなる。

「大学生だよな!?若そうだったし!」
「サッチ、もうやめとけって。マルコは、モテるおっさんなの知ってるだろ」
「おいエース」
「はは、ごめんごめん」


スマホのバイブが鳴る。嫌な予感。

「はい」










「お前らは行ってきていいよぃ。おれがどうにかするから」
「いや、マルコ、でも」
「途中から合流するってことでいいだろ?それに、オヤジ喜ばせてこい」
「んー、そうだな。また店、連絡する」


海外の取引先とのトラブルのためこの時間。常務の俺が、こういう業務なんて普段は全くだが、たまには海外支店の奴らと連携して、どうにか顧客とのトラブル解決するのもありかもな。









スマホの通知が来る。


"マルコさん。こんばんは。
お酒楽しんでますか??
わたしは今バイト終わって帰るところです。
今日は顔が見れて、嬉しかったです。"


胸が踊った。
彼女はおれをどうしたい?おれとどうなりたい?会えて嬉しかったなんて言われて、期待してもいいんだよな?今までの反応も、全部良いように、俺の都合のいいように考えていいんだよな?


取引先から、承知した旨、そしてこの件についての迅速な対応に感謝するメールが届いて、この件は一件落着。



メッセージだと、次見るのが何分後になるか分からない。








「もしもし?マルコさん?」
「お疲れさん。今から、迎え行ってもいいか?」



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