試験も無事に終わり、大学は丸2ヶ月の春休みに入った。友達と旅行の予定も組み、バイトも組み、帰省の時期も決めてある。サークルの合宿が不参加なのは、数少ない仲良しの子たちがみんな各々の予定で不参加みたいなので、行ってもあんまり楽しめないと判断した結果。

旅行代とか稼がなきゃなぁ、節約しなきゃなぁ、なんて考えつつ、ぼーっとしながら商品整理してたら、一気に店内がガヤガヤと騒がしくなる。いらっしゃいませー、と心なんて1ミリもこもってない決まり文句が反射的に口から出た。

「エースには言われたくねぇよ?!」
「は?サッチ、自分が何言ってんのか分かってんのか?」
「いやいや、おれの方が出してるからな!」
「んなわねーだろ!なぁ!マルコ!」
「ほんとうるせぇなお前ら」


知っている名前が聞こえて、商品棚から声が聞こえる方を見やると、スーツ姿の男性三人組がやいのやいのやり合っていた。いや、正しくはそのうちの二人が、なんだけど。残る一人は、わたしの頭の中を常日頃占領している人だった。ドキリと心臓が跳ねたが、顔の筋肉が弛緩するのは抑えて、商品整理に戻る。声をかければいいものの、もうお二方いるわけで、わたしみたいな大学生が話しかけても、迷惑になりそうなので、やめておく。

「すいませーん、ウコンの飲むやつってどこに置いてますか?」

マルコさんの連れの方。若めで、そばかすが可愛い黒髪のスーツイケメンがわたしに人懐っこそうな笑顔を向けた。わあ、太陽みたい。そんなことを思いながら、こちらです、と案内する。

「おれ、明日から出張だし朝はえぇのによーオヤジってたまに鬼畜だよなー」
「前乗りしたらいいじゃねぇか」
「それもそうなんだけどよ…」
「サッチ、お前、オヤジと飲みてぇからって我慢して……あ」
「…こ、こんばんは」

ウコンドリンクの売り場まで案内して、マルコさんに気づかれることなく立ち去ろうとしたけれど、失敗。完全に鉢合わせてしまい、はやり反射的に反応してしまう。このお二方は、前にマルコさんの話で聞いたことのある名前、"エース"さんと"サッチ"さんかな。確か、この太陽みたいな人がエースさんで、「なになに?知り合いかよ?」なんてニヤニヤしてるのがサッチさん。

「おれのタバコ覚えてくれてる子」
「ふーん」「あーそう」

「…わたしは失礼しますね。お酒楽しんでください」








"タバコ覚えてくれてる子"



言いきれない感情に襲われながら、バイト上がるまでふわついた気持ちでいた。同僚の方もいたし関係をはっきり言うのもおかしい。あれ?そうはいっても、わたしとマルコさんの関係って何だろう?確かにわたしはマルコさんのタバコを覚えている。うちの店の27番に置いてある、青の線が入ってる銘柄。マルコさんにとってわたしの存在は何なんだろうか。知り合いの女子大生?妹みたいなもの?

考えても分からないなぁ。15歳以上年上の考えてることなんてよくわからなくて当たり前か。

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