「27番」



最初にその言葉を聞いてから、忘れたこともない彼。


特徴的な髪型に、怠そうな目。洒落た小物が映えるスーツを上手く着こなし、黒い革のビジネスバッグを片手に、そして反対の手にブラックの缶コーヒーを持って、呟くのは「27番」。







「ありがとよい」




可愛い喋り方だなぁとか思ったり、今日のネクタイは派手だなぁとかちょっと眠そうだなぁとか
毎回、ニヤニヤと心の中でしながら思うわけで。でも、それを顔に出さないように必死に堪えて、淡白に「ありがとうございましたー」と言うわたし。





一ヶ月、海外へ行く人の代わりに、と店長に頼まれて、なんとなく受けてしまった、早朝のバイト。
今日で入ってから、一週間。大学の近くだし講義には間に合うし、そんなに影響はない。早起きは嫌いではないし、どちらかと言えば、生活リズムを整えるためには大変助かっている。








毎朝、来るその人が気にならないといえば嘘になるけど、ただ、毎朝決まった時間に、決まったものを毎日買われると、嫌でも覚えてしまう。

でも、覚えてしまえば最後。

何の仕事してる人なんだろう?とか、指輪は付けてなかったけど彼女とかいるのかな…とか、なんとなくお仕事できそうな感じするし、やっぱりお偉いさんなのかな…とか思ったりしてしまうわけだ。あの人のことを、こんな風に色々と考えてしまうようになってて。








彼女はいないといいな


と思ってしまった瞬間、この淡い恋心に気付いたのだった。




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