「じゃあ、また来させてもらうよぃ」

「はい、いつもありがとうございます」




会計が終わるのを待っていた。マルコさんは済ませたらしく出口へ向かっていく。わたしも急いでついていき、お店を出るとこで振り向いて、ごちそうさまです、と小さくお辞儀。
店員さんは店のドアまで私たちを送ってくれて、ありがとうございます、お気をつけて、と言ってくれた。




マルコさんが、ピッと車の鍵を開け、助手席のドアを開けてくれる。どうぞ、なんて言ってくれるし、そんな気を使わなくてもいいのになぁ、とおもいつつ、やっぱりこんなことができてすごいなぁと思う。




「美味しかったです。それと…ごちそうさまでした。ありがとうございます」

「あー、どういたしまして」



次の言葉を探す。お話、なんかお話ないかな…。


探せば探すほど、なんだか、会話から遠ざかってる気がしてならない。話題は見つからないし、元々共通点があるわけじゃないし、興味があることが何なのかも知らない。ごはん食べながら話したことだって、ほとんどはわたしの話だ。マルコさんが話してたのは、1人暮らしだということと、同僚のエースさんとサッチさん?と"オヤジ"って呼んでる社長さんのことくらい。お仕事の話も少しはしてくれたけど、ごはん食べてる時までお仕事のこと考えたくないだろうな、と思って、話題をそらした。



あぁ、そうだ。
わたし、マルコさんのこと全然知らない。



「車多いですね」

「だな。こんな時間なのに」



結局、道が混んでるしこんな話題しか出てこなかった。あーもう。どうしてわたし、おしゃべりが上手じゃないんだろう。


マルコさんといると、落ち着くのにドキドキする。不思議な感じ。けれど、やっぱりドキドキが勝って、緊張してしまう。


お店に入った時間は早かったのに、ゆっくりゆっくりごはんを食べていたら、もう20:30をすぎている。あぁ、これはわたしのマンションのほうに向かっている。たぶん送ってくれてるんだろうなぁ…と思うと、もうおしまいかぁ、と切なくなる。


試験なんてなければいいのに。いや、今日は空きコマに勉強したし、当初はカフェでお勉強する予定だったけど、もう、今から帰って勉強はしないだろうなぁ。


大学に迎えに来てもらえた。
美味しいごはんをごちそうになった。
緊張しながらだったけど、楽しくおしゃべりもできた。


楽しい時間が、ここまでなんて、嫌だな。もっとたくさんゆっくりお話したいし、もっとマルコさんのこと知りたい。もう少し、あと少し、望めばキリがないのかもしれないけど、もうすこし、




「帰りたくないです」







気づいた時にはもう遅い。彼の耳にも、届いたみたいです。


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