何か食べたいモンあるか?と聞かれ、特に食べたいものはないです、と言えば、じゃあ適当なとこ行くか。とエンジンを入れたマルコさん。


お前のこと待ってた……ってことは、わたしに会いに来てくれたこと…だよね。嬉しい、嬉しすぎる。理由は知らないけど、嬉しい。そして、この車の香り、ドキドキする。

彼の運転は相変わらずスムーズで、ハンドルを片手で操る姿に、胸がきゅんとする。車内に流れていた落ち着いたジャズが、反対の手で消された。別に、いいのになぁ



「名前ちゃんいなかったら、どうしようかと思ったよぃ」

「!…わたしは、ビックリしましたよ」

「だろうなぁ」



ハハ、って笑って信号を曲がる。どこに行くんだろう?

あ、そうだ。写真展のこと。忘れてた。お礼になるかもわからないし、しかも今も、こうやって、車に乗せてもらってるのに、もうお礼とかじゃなくなるかな。じゃあ、普通に写真展行きませんか?って誘ったら良い?え、なにそれデートみたいで恥ずかしいよ!いや、結局、出掛けるのは一緒だし、変わりないかな…。……ええええ。もう無理!デートになんて誘ったことないし!なんて言えば良いのか分からないよ!



「どした?なにコロコロ、顔変えてんだ?」

「え!んー…あ、いや、なんでも「なくねーだろ」……うーん」

「気になるじゃねぇか。言ってみろよぃ」

「え、あの、………」


なんで、バレてるの……!
でも、言うべき?言いにくいものをマルコさんが引き出そうとしてくれてる。これも、優しさ?それとも意地悪なだけ?もう、分からないけど、言わなきゃ…違う。言いたいんだ、わたしが。


「写真展、とか……興味ないですか…?」

「あー…写真か。まぁ、ないこともないな」

「バイトの先輩に、チケット貰ったんですけど…よかったら、あの、一緒に………」


行きませんか?

って言える勇気がなかった。なんで!大事なとこ!けど、言いたいことは伝わった。信号は赤。視界の隅では、前傾姿勢でハンドルの上で手首から肘を付き、その体勢でわたしの方を見てるマルコさん。うわー、もう!恥ずかしい!


「デートのお誘いか?嬉しいな。…行こうか」


大きな手で頭を撫でられ、思わずマルコさんを見れば、優しく笑われた。

またさらに心臓がドキンと高鳴って、顔が火照るのが分かる。

どうしてこんな恥ずかしいことを簡単にやってのけるんだろう。大人の男の人ってみんなこんなもんなの?やっぱりマルコさんの隣には慣れない。




にしても、そんな視線をわたしに向けるのは、ずるいと思います。

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