なんだ、この少女は。俺を掻き乱しやがって。 ーーお礼がしたいので、連絡先教えてください。 恥じらいながら呟いた彼女は、とても幼くて、とても、可愛かった。 コンビニに入るやいなや、斜め下の一点を見つめて、小さな声で何やら呟いてる彼女がいて、(お、よかった。ちょうどいい)と思ったのはいいが、一向にこちらを向かない。目の前に立つと、聞こえたのはその小さな声。 落ち着け、俺。 「誰に、何のお礼したくて、連絡先聞くんだよい」 もちろん、期待はあった。しかし、もしかしたら、違う人に対する台詞だとしたら?そんなことも考えてしまって、結局出たのは、こんな感じ。もちろん、いきなり声を掛けられ、驚きを隠せない名前ちゃんは、慌ててる。若いな、なんて、見てて、心が暖まると同時に自分との年齢差も感じる。 「いいいいいらっしゃいませ!」 「どーも」 「えっと、あの、」 「27番頼む」 「はいっ!」 さっきのやつを掘り下げるつもりはない。もし、俺へ対する言葉だとしても、だ。女から言わせるなんて、そんな野暮なこと、ガキじゃあるまいしできるわけない。いや、そんなこと言ってる間に聞けよって問題なんだが。会話は途切れたまま。ただ、お金を渡し、煙草を受け取り、おつりを貰う。ドアを出て、少し離れるとさっそく煙草に火を点けた。 「最近、マルコおかしくねぇか?」 「あ?俺のどこがおかしいんだ」 「浮わついてるよな」 「浮わついてねぇ」 「はー?なんだよ。認めろよマルコ」 「サッチ、てめぇさっきのやつ、まとめ終わってねーだろ。煙草ふかしてねぇでさっさとやれよい」 「前々から思ってたけど俺につめてーよな!」 「で、どうなんだよマルコ」 「エースも、はやく仕上げねーとオヤジに怒られるんじゃねーか」 「いや、そんな、こと………でも、やべぇ」 浮わついてるつもりはない。 けど、盛り上がってるのは確か。簡単に言えば、「コンビニの可愛い女性店員と知り合い、家の近くまで送った」それだけなのに、こんなにも意識してるなんておかしい。誰かに似てる?いや、こんな女の子初めてだ。 「あ!マルコ!」 「なんだよい」 「女の子はなー、紳士なだけじゃ惚れてくんねーぞー」 「うるせーからはやくいけ」 「おー、こえー!」 「!…ま、マルコさん…」 バイトが終わった彼女が出てくる。 俺は、短くなった2本目を地面に落として火を消したあと、エチケットケースに突っ込む。 「おつかれ」 「あ、りがとうございます…マルコさんこそ」 「ん」 私服の彼女は二回目。大学の教科書などの荷物片手に俺に笑う。迷惑そうではない、と思う。俺のとこに寄ってきて、荷物を持ったまま佇む。話をするわけでもなく、視線は俺の目には来ない。 「今日も、送っていいか?」 「!…はい、ありがとうございます」 よし。目が合って、ニコッと笑われたら本当に胸を掴まれる。狙ってやっているなら、たちが悪い。それは、俺を誘ってる証拠。けれど、36年生きてきて、これは違うと分かってる。なんの意識もしてない、素でやってる、と。もどかしい。わざとならば、すぐにでも、車に乗り込んでキスするのに。いや、コンビニの駐車場なんて、ロマンもくそもねえか。 ← top → |