「成程。意味わかりませんね」 「成程じゃないじゃん」 「おれも意味わからんぜよ」 わたしは、仁王とムスカのペテンには引っ掛からないから、起きてすぐにそれが仁王だとわかった。うむ、姉貴は違うんですよ!へへっ 両親はたまたまいなくて、三人でテーブルを囲み、朝食を取っていると、ムスカはもう学校に行くらしい。そういえば、わたしの部屋に起こしに来た時はすでに制服だったしね。 「ちょっと生徒会の仕事があるんで先に行きますね」 「朝からなんて大変だね。がんばれ」 「すごい棒読みですね」 「はよう行け、柳生。あ、ムスカの方」 「仁王くん……」 いってらっしゃーい、と強制的に玄関へ向かわせるように声を掛けると、ため息をついて、いってきます、遅刻しないように、とわたしたちに釘をさして行った。 比呂士が家を出たところで、わたしたち二人が残されたわけだが、少し気まずい。さっきのは何なんだ。いつもの気だるげな感じとは違う、盛んな仁王を見ちゃった気がして、なんだか思い出しただけでぞくぞくする。あのまま、比呂士が入ってこなかったら?どうなってたの?経験が浅いわたしでも、ちょっとは予想できる。 正直、ドキドキした。 「今日、雨かー」 「らしいね」 天気予報の可愛いお姉さん目当てで見ているであろう仁王がぽつりと呟いて、案外落ち着いて答えてるわたし。ああそっか、仁王にとってはあんなの日常茶飯事で、ドキドキしても、また元通りってわけか。ふんっ!別に、悲しくないわよ!! ゆーっくりと朝ごはんを終え、お互い制服に着替えて(もちろん別々の部屋!)、洗面所で身支度。髪の毛をブローで整えるわたしの隣で、髪留めはわたしのゴムを使って結っている彼。可愛いなあとか思う自分が悔しい。 制服は、比呂士のカッターシャツとセーターとスラックスを出した。なんだ、サボり癖がついてる仁王のことだから、この際、学校行かないとかいうのかと思ったけど行くんだ。ちょっと吹いた。 「ブンちゃんの家とかに行かなくてよかったね」 「…ブンちゃんのスラックスはウエストがデカすぎじゃしな」 「ていうか、仁王くん。完全に遅刻してるよわたしたち」 じゃなー、と呑気に答える仁王に、行くよー!と声を掛ければ、はあいといい返事。これまた比呂士のもう一つの革靴を取り出して貸す。あっ入るんだ、よかった。 普通だったらここまで遅くならなかったけど、なんでか知らないけど仁王は着替えるのが異常に遅かった。朝シャンしたいとか言い出したけど、ハゲるよ!!と言って、それは阻止したけど、こんな時間になるなんて。 「そういえば、うちには傘がなかったんだ…」 「一本あれば充分じゃろ」 「…仁王がいいなら、」 結局、学校に着いたのは一限目の後の休み時間。校舎から、急に女の子たちがガッ!と乗り出してきて、とにかくすげえ視線が刺さってわたしが慌てた。 学園の指折りのモテ男と、相合い傘で遅刻登校なんて、女子が騒がないわけないですよね。そんな中、ブンちゃんの大声が響いた。 「うおーーーい!!おまえらあああああーー!!!おい、もうシたのかよ!!さっすが仁王!!」 ぎゃああああ!!と、悲鳴としか、言いようがない声が立海に響き渡っているのにわたしは顔を真っ赤にさせ、どうしよう!どうしよう!と隣の仁王を見上げる。 「うるさか…ブンちゃん、まだぜよ…まだちょっとだけじゃ」 「?ん?ま、まだ?え?」 「こうなることを見越して、ゆっくりしてた」 いつでも、仁王は策士ですね。ウン。 てか、ベッドにいたのも、実は奇妙な体験ではなく、本当に忍び込んできた気しかしない。でも、それは絶対違うらしい。状況適応能力に長けた仁王にはやはり敵わない。 「はは、すっかり俺たち人気者じゃなー」 はははーなんて、暢気に笑う仁王の顔を見ていると、もうなにも言えなくなった。 ベッドから仁王が湧いた朝の話 終 ← top → |