「 ……え?」 「…………」 「…………え?仁王?」 「なんじゃ?」 もぞもぞもぞ ベッドのなかに、仁王がいる。いやいや、なんじゃ?じゃなくてさ、なにしてんのよ。ここ、わたしのベッドだよね?昨日の夜、この布団を被ったときは、絶対に一人だったし、寝付いたのも一人。……意味分からん。は?今、何時? あっ7時なんだ…学校か。起きなきゃ。………ん? 「なんで、わたしは抱き締められているのでしょう」 「おまんが抱き心地ええからじゃき」 「ちょっときゅんとした恥ずかしい今すぐ離せ」 仁王帰れよ!でも、明らかにパジャマなんだよ、彼。可笑しいでしょ。何しにきたの。てか、パジャマで来たの?! 「普通に自分のベッドで寝てたんじゃけど、起きたら、ここにおった。あ、寝顔を堪能したぜよ」 へへん、と笑う仁王の嬉しそうな声がもう可愛すぎる。あれ?サラッと言いましたけど、それってなかなかに信じがたいですよね?んー、なんでここにいるんだろう。 え?寝顔を堪能した…だと!? 遅いだろ!というツッコミありがとうございます。いやでも、仁王くん!なんでここにいるのよ! 「なんでじゃろーなー?はは」 「はは、じゃない!ムスカ呼んでくる!」 「行くなよ」 双子の弟であるムスカ(間違えた。比呂士)を呼びにいこう思い、仁王の腕から抜け出そうとしたら、掠れた低い声を使って、耳元で囁かれてしまいわたしは動けなくなりました。吐息が当たって、くすぐったい。なんという、仁王色気雅治!!朝からちょっと、わたしには刺激が強すぎると思います。逆にこわいです。 それでも、負けじともぞもぞ動くけど、テニスで鍛えられた仁王の腕の筋肉には敵わない。頬に触れた、スウェット越しの胸筋は、おもっていたものとは違って、かなりよく鍛えられてる。すごい硬い。ぎゅうううときつく抱き締められ、仁王の香りを強く感じる。 苦しいのに、嫌じゃなくて、 辛いのに、離されたくなくて、 もう少し、このままで、 なんて思ってしまう。そこに、いつの間にか、抵抗をやめているわたしもいた。 「、に、お、」 「ええ匂い」 首の辺りに掠める仁王の鼻。くんくんと犬のようにわたしを嗅いで、はあーーーと嬉しそうに息を吐く。男の人にこんなことされるの初めてだし、更にその相手がこんなにもイイ身体で、しかも仁王。超イケメンだ。そうなれば、わたしの、ドキドキと高鳴る心臓に不思議を感じることはないだろう。こんな男の人に、こんなことされて、こんな風にならない女の子がいるなら、教えてほしいくらいだ。 「もうちょい、このままがええ」 「!…に、」 「ええじゃろ?」 「………っ!」 いいえなんて、言わせる気はないのだろう。また、その、色気、エロさ、甘美さ諸々を含んだ声でわたしに囁く仁王。どうしよう、これ。絶対遊ばれてるんだけど、上手く体が動かない。でも、嫌じゃないって認めてしまったし、いや、でもさすがにこれはちょっとやばいんじゃ…、 もはや、心臓が今までに無いくらいにドクドクドクドク働いてるのが分かるし、自分の顔が赤くなってるのも分かる。恥ずかしすぎる!…………?あれ? 「おれも、ドキドキしとるぜよ…じゃろ?」 「う、うん……」 わたしが引っ付いてる仁王の胸からは、それなりに早い胸の鼓動。ドキドキしてるのはわたしだけじゃないんだ。仁王も、一応、こういうときに、ドキドキするんだ、なんて冷静に考えてる自分は一体何者なんでしょうか。や、しかし、今、この状況に頭がついていってないのは事実。 「ほんっまに、隙ばっかりぜよ」 急に視界がぐるんっと回れば、目の前に仁王。そう、顔。無造作な髪の毛が垂れてる。視界の端には、壁が見える…ん、これって、 組み敷かれてる?てか、腕動かないと思ったら、仁王に押さえ付けられてる?いよいよ、やばいじゃ済まされない状況になって参りましたけど、こういうときって一向に、体が動かない。 「そんなんじゃけん…、俺が、」 切なそうに眉を潜める仁王は、わたしの腕を握る手に力を入れる。正直、痛いけど、痛いけど、その先の言葉が気になって仕方ない。こんな仁王の表情、初めて見た。怒りというか切ないというか、苦しいというか、纏めるならば“もどかしい“ような、そんな顔。見てるこっちがつらくなるほどの仁王に、わたしはなにも言えないまま、先の言葉を待つ。 「俺が、………っ」 「………」 「おはようございます!!!!そろそろ起きてください!!」 ドアをバァアン!と開け放って、登場したのは、我が弟、ムスカ(間違えた。比呂士)。 「???!えっ……?仁王くん!?ちょっ、何してるんですか!!」 目を瞑って、大きく鼻で息を吸ってーー吐いてーーーをした仁王は、わたしの上から身を退かせ、うるさいのう…と猫背で、ムスカの元へ歩いていった。 あの目に映ったわたしの姿は、何かを待ち望んでいるような表情で。でも、あながち間違ってなかった…よね、と思ったりもして、 とりあえず、仁王にドキドキさせられたことに不快を感じはしなかったのだ。 ← top → |