骨と星と誰かの小指 | ナノ


「司馬懿くん、あなた今日からわたしのいぬにおなりなさい」
「は、」

開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。曹丕の妹である名前の我が侭は今に始まったことではないが、いつまで経ってもなれることはない。否、慣れたくはない。慣れたらお先真っ暗である。

「いぬ、とは、どういうことでしょう」
「まあ、わんと鳴くいぬですよ。さあ、今日からわたしに従うのですよ、いぬ」
「ふ、ふざけるな馬鹿め!何故私が犬など…!」

大体普段から従わざるをえないと言うのに今更である。忘れもしない、私に下したくだらぬ命の数々。最近ではこれだ、オーロラが見たいから快適に見れるよう先に行って準備してこいと無理やり追い出され長時間待ちぼうけをくらった挙げ句問いただせば「あら、そんなこと言いましたかしら?ふふ」などと言う女なのだ。ふふじゃねえよこれ以上何に従うというのだ。

「さっそくですが、いぬ」
「勝手に決定しないで下さい。私は承諾しておりません」
「仕方がありませんね。ならば、いぬ、ぶた、きなこから選びなさい」
「きなこが果てしなく気になりますがなんだというのですか馬鹿め!選択肢があるようでないではないですか!」
「我が侭ですね」

お前にだけは言われたくないと司馬懿は心のなかでだけ返した。そんなことを言ったら明日の朝日は拝めないだろう。

「しかし兄様は、司馬懿は兄様の下僕だと仰有ってました。つまりは、わたしのいぬということなのですよ」
「前提事実からして事実無根です」

誰がいつ誰の下僕になったというのだろうか。部下と下僕は違うのだがまあ、曹丕にとっては同等なのだろう。

「でもよく考えたらあなたに犬のような愛らしさはないですね」
「ではやめましょうか、いえやめてください。これまで通りにお呼びください」
「わかりました、豚」

…おかしい。これまで通りにと言った筈なのに何故豚と呼ばれたのだろうか。

「そういうわけです。今日からまたよろしく頼みますね、豚」

有無を言わせぬ名前の笑顔に、どういうわけだよと怒鳴り散らすことなどできなかった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -