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最近日輪洗濯機(元就命名)がおかしい。乾燥すると乾ききっていないのに、テーテテテテーテテテテテテーとてのひらを太陽にが鳴るのだ。おい洗濯機、嘘をつくな。乾いていないだろうが。こつんと叩くが日輪洗濯機は黙り込んだままだ。

「ねえ元就、日輪洗濯機がおかしいんだけど」

夕食のときにそう話を切り出せば、元就は春雨サラダに箸を伸ばしたまま固まった。

「おかしい、とは?」
「乾燥しきってないのに音鳴る」
「ふむ…そうか。おのれ長曾宗我部、無能なやつよ。仕方ない、また奴に明日修理させる」

…長曾我部さんも大変だな。というかあの洗濯機を改造したのは長曾我部さんだったのか。どおりで…大体てのひらを太陽にが流れるあたりでなにか可笑しいと思っていたのだ。

「いや…明日は無理だったか」
「うん?」
「明日は結婚式らしい」
「え、なに!長曾我部さん結婚すんの?誰と?元就と?」
「馬鹿者!そんなわけがあるまい!結婚式に呼ばれたと昼休みにほざきおったのだ」
「へえ」
「大体我にはそなたがおるわ」

冗談だったのにと思いながら味噌汁を流し込んでいると、予想外の言葉に飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになってしまった。思いきりむせると元就は呆れたような目でこちらをみてきた。

「め、めずらしいね…元就がそんなこと言うなんて」
「ふん」

鼻を鳴らし悠々と味噌汁を飲む元就にももう慣れたので再び食事に集中する。

「…それにしても、ようやく食えるようになったな」
「ああ、最初はひどかったからね」
「人の食えるものではなかったわ」
「うん」

相変わらず辛辣な言葉だがそれなりに長い付き合いなので慣れたものだとテレビに耳を傾ける。動物園が紹介されている。高速道路がうんたらかんたらで混雑してうんたらかんたら。次の瞬間うつったパンダの愛らしさに思わず頬がゆるむ。

「まあ、こうして食えるようになったわけだ」
「うん」
「我らの付き合いももう五年になった」
「うん」
「そろそろ、あれだな」
「うん」
「その…」
「うん」
「籍を入れぬか」
「うん……うん?」

ゴリラの映像に大学時代の秀吉先生を浮かべていた頭に慌てて今の台詞を叩き込む。理解するまでに結構な時間がかかったが、その間元就は黙って待っていてくれた。

「えっと、もっかい言って?」
「…一度しか言わぬ」
「…わたし、まだまだ料理へただよ」
「知っておるわ」
「寝癖もひどいよ」
「ああ。…昨日は蹴られたな。足元に枕もあった」
「…あたまもわるいし」
「今更だな」
「…うん」

ほんとにいいの?そう訊ねれば、当たり前だと返ってきて、私は食事中など構わず箸を置いて元就に抱きついた。焦ったような声も無視して抱きつけば、暫く間があってから背中に回った手に笑みがこぼれる。

「…毛利名前かあ」

ぽつり呟けば、元就はふんと鼻を鳴らす。照れたときによくするそれに笑みも深くなる。

「料理、がんばるね」
「…精進せよ」

味噌汁はうまく作れないけど、ずっとあなたの帰りを待つ女でいたいのです
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