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「ケ〜ロケ〜ロケ〜 ケ〜ロケ〜ロリ〜ン」

森に行ってどんぐりガエルと遊ぶのが最近のわたしの日課だ。学校帰りによく行って、ぷよ勝負をしたり歌を歌ったりするのはすごくたのしい。毎日の癒しなのだ。ところがである。最近それを邪魔するやつがいるのだ。

「名前!」
「ケロッ」

森に響いた声に反応したどんぐりガエルがきっと其方を睨みつける。さっそく来やがったと見やればやっぱりだ。

「出たな変態」
「ケケッ!」
「なっ!変態ではない!闇の魔導士シェゾ・ウィグィィだ!」

美少年なのに変態とは勿体無い。やはり天は二物を与えないのだろうか。変態というたびにこう名乗ってくるが名前など端から覚える気はないので変態と呼ぶことにしている。

「プププププ!」
「そうだろう、俺は真実として変態ではない」
「違うよ、どんぐりガエルは変態野郎は死ねって言ってます」
「ケロン」
「嘘をつくな!」

こんな愛らしい生き物がそんなことを言う筈がない。何故か自信満々に笑んだ変態に溜め息がこぼれる。

「ケ〜ロケ〜ロリ〜ン ププッ」
「いっしょにうたおう だと?」
「そうだよね、こんな変態は首を愉快な方向に曲げて死んだ方が私たちも愉快だよね」
「ケロン」
「だから嘘をつくな!」
「本当です。わたしはどんぐりガエルの言葉がわかるんだもん」

まあ多少大袈裟に表現してる部分もあったりなかったりする。いつもの調子で話を進めていると、変態は拳を握りしめふるふると震わせた。

「この愛らしい生き物と心を通わせる…お前が、ほしい!!」
「なっ!」
「ケロッ!」

これこそがシェゾが変態たる所以の言葉なのだが、いくら言われても慣れないもので、顔に熱が集まる。

「へ、へ、変態め!」
「あっ ち、違う!欲しいのはお前の力だけだ!」
「ケロケ〜ロ!」
「そうだそうだ!変態は還れ!シッシッ!」
「プップ!」

どんぐりガエルと一緒にシッシッと手を払う。

「変態じゃないと何度言えば…いい加減名前を覚えろ!」
「名前呼んでほしいの?」
「は?いや、まあ、変態と呼ばれなければいい」
「ふーん」

まあ、毎日名乗られもすれば嫌でも名前は覚えるのだが。興奮すると激しく言葉を間違えるだけで実際は悪いひとでもないだろうってことはなんとなくわかってきた。

「じゃあさ、普通にあそびにきてよ」
「…は?」
「だから、普通にあそぼうって言ってるの。力を奪うとかじゃなくってさ」

そうしたら名前、呼んであげるよ。そう言うとどんぐりガエルがすこし不満そうにププッと言うものだからそっと頭をなでる。

「…ふ、いいだろう!そうすれば変態とも呼ばれないし、チャンスもある、一石二鳥だ!他のやつに力を奪われても困るしな」

白昼堂々とそう言ってのけた変態にこのひとらしいなと苦笑をもらす。大体名前を呼ぶとは言ったが変態と呼ばないとは言っていないのだが、面白いから黙っておこう。

「じゃあ、これからよろしくね!シェゾ」
「ププッ」

初めて呼んだ名前に少しのくすぐったさを感じながらシェゾを見れば、シェゾは顔を真っ赤にさせていた。「ふ、ふん!今日はここまでにしておいてやろう!」まだぷよ勝負もしていないのにわけのわからない捨て台詞を残して耳まで真っ赤にして去っていくシェゾに、可愛いところもあるんだなあなんて小さく微笑む。明日からたのしみだなあ。

あなたの獣には牙がない
シェゾとどんぐりガエルって和みますよね
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