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「…ん、仲達?」

今夜は冷える。名前が誕生日にくれた冗談なのかよくわからん花柄のブランケットをかけながら暗闇の中パソコンに向かっていると、ぽそりと後ろから呼びかけられる。

「すまん、起こしてしまったか?」
「ううん」

毛布からひょっこり顔をだしてふるふると首を横に振ってから、毛布にくるまりながら此方にやってくるその様子が可笑しくてふっと笑えば、名前はよくわからないような顔をしてずるずるとやってきた。

「まだお仕事してるの?」
「ああ」
「さむくない?」
「いや、これがあるからな」

花柄のブランケットを指差せば、名前は可笑しそうに似合わないねとこぼした。ならば何故これを選んだと問おうとした言葉は毛布と一緒に後ろから包んできた名前によって宙に溶けた。

「わたし、花柄がすきなんだ」
「知っている」

テーブルの上にある花柄のマグカップは名前とお揃いのもので、誕生日に送ったらお揃いにしたいからと名前が司馬懿の分も買ったものだ。おかげで司馬懿のまわりは花柄だらけである。それもこれも司馬懿の布団が花柄なのをみて名前が喜んだのが始まりだ。

「えへへ、あったかいね」
「…ふん」
「ね、司馬懿」
「何だ」

けっこん、しようね。後ろから抱きついたままそうぽつりと耳元に届いた言葉と、肩にかかる重み。先程まで心地良かったぬくもりはいまはただ、熱い。恐らく顔は真っ赤であろう、暗闇で仕事をしていたことに感謝した。「お、おい、名前?」そう呼びかけると、司馬懿の肩におでこを乗せていた名前からはすうすうと寝息がきこえてきた。思わず溜め息がこぼれる。誰が布団まで運ぶと思っているのだと心中で悪態をつきながらも起こさぬようそっと抱き上げれば、すりすりと胸板に頬擦りをしてきたものだからあやうく落としそうになってしまった。布団へ降ろし頭を撫でれば、名前はへにゃりと笑みを浮かべる。「…先を越されたわ」ずっと自分から言おうと思っていた言葉をあっさりと告げた名前は、何事もなかったかのようにすうすうと寝息を立てている。「明日から覚悟するんだな」

毛布の中条約
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