※栄純にグーパン飛んできますので好きな方は観覧注意です!





名前ちゃんは熱しやすく冷めやすいタイプだ。
好きになったらとことん攻めるけど、何か嫌な部分を見付けるとすぐに態度がガラリと変わるので、男子からはあまりよく思われていなかったりする。

今日もまた、授業が終わると同時に絶賛片想い中の栄純君の元へアピールしに教室を飛び出していった。
そんな名前ちゃんと親友である俺、小湊春市は巻き込み事故にあう。



『春っち、行くよ!』

「えっちょ、待ってよ俺は関係な――ぐえッ!!」



ネクタイを引っ張られて首が絞まる。
横暴すぎる、と言いたいが息が出来ないからとにかく離してと名前ちゃんの手をネクタイから引き剥がした。



「っはぁ…はぁ…はぁ…けほっ」

『春っち大丈夫?』

「んな訳…ッ…ない、よ…はぁー死ぬかと思ったよ…」

『私が死なせないから安心して!』



ふふん、と親指をたててドヤ顔してくる名前ちゃんに軽く頭を叩く。
痛い、と頭を抑える名前ちゃんに俺はこれの100倍苦しかったからと頬を膨らませた。
悪気がない事は分かってるからあまり強くは言えないけれど、名前ちゃんの反省する表情を確認したから許す事にした。



「で、栄純君の所に行くんでしょ?」

『あ、そうそう!早く行こっ』

「だから俺を巻き込まないでよー」

『だって春っちがいる方が心強いんだもん』



笑顔でそう言う名前ちゃんに負けた俺は、名前ちゃんの手を掴んで走り出す。
俺達と栄純君のクラスはそんなに離れている訳じゃないけど、栄純君は授業が終わるとすぐに部室に行ってしまうからそうなると野球部員ではない名前ちゃんは栄純君と話す機会を失ってしまう。
それだけは避けたいとなるべく早く教室に向かった。



『沢村くんまだいるかな』

「どうだろう…」



教室に着き、2人で中を覗けば窓側の席に2、3人で固まる男子達。
その中の中心に栄純君がいるのを発見した俺達は栄純君に声かけようとした。



「――あははっいやいや、苗字さんは無いわ」

「つーか俺、苗字さん嫌いだし」



栄純君の言葉に耳を疑う。
今まで1度だって名前ちゃんの事を嫌いだなんて素振り、見せた事がなかった栄純君に俺も名前ちゃんも、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。



『っ……沢村、く…』



隣で肩を震わす名前ちゃんを見て、いてもたってもいれなくなった俺は、



「栄純くん…どういう事だよ…」

「っは、春っち!!?」

「名前ちゃんが嫌いって……どういう事だって、言ってるんだよ!!」



気付けば俺は、栄純君の顔目掛けて平手を振り下ろしていた。



『春っち…!!』



―――パシッ!!



『ぃ…、!!』

「名前ちゃん!?」



確かに栄純君に向けていた筈なのに。
気付いた時には名前ちゃんが栄純君の前に立ちはだかり栄純君を守る形で俺の平手を受けていた。
叩かれた方の頬を押さえて顔を歪める名前ちゃんに俺は頭の中が真っ白になる。



『っ、暴力は、だめ…だよっ』

「………、」

『わたし、春っちのその気持ちだけで、十分…だから』



名前ちゃんの方が痛かった筈なのに俺を慰めようと笑って俺の頭を軽く撫でた。
そして、俺に背を向け栄純君の方を向く。



『春っちが未遂とはいえ、沢村くんの事殴ろうとしてごめんなさい…』

「っ別に、俺は何とも…」

『私はね、沢村くん…アンタを春っちに殴らせるくらいなら……』

「……、?」

『私がアンタを殴る!!』



教室中に響き渡る机が倒れた音に教室だけでなく廊下からも生徒が群がってくる。
流石にヤバいと思い、名前ちゃんの手を引いて教室を飛び出す。
とにかく人が来ないところへと階段を駆け上がる。

一番最後の段を上り終えたの同時に手にかけたドアノブを勢いよく回した。



『、はあっはあっはあっ…!』

「は、は、はっ…名前ちゃ、だいじょ…ぶ…?」

『ん…、ぅん…っはぁ…はる、ち…は?』

「俺は…部活で、鍛えてる、から…」



暫く2人の荒い呼吸音だけが聞こえる。

呼吸が正常に戻った時、名前ちゃんの口が開いた。



『春っちぃ……』

「ん…?」

『私っ沢村くんの事、嫌いになりたいのに、嫌いになれないよぉ…』



瞳が涙で濡れる。
それは今にも溢れるのではないのかという程。
俺は、そんなに名前ちゃんを苦しめた栄純君が許せなくて、気付けば名前ちゃんを抱き締めていた。



『っはる、ち…?』

「…いくら悪口言われたからってすぐ嫌いになるなんて出来る筈ないよ」



突然の事に困惑する名前ちゃんの髪を優しく撫でる。
そして、



「こんなに長く好きになったの、俺が知る限り、栄純君しかいないんだからさ…」

『ぅん…』

「だから名前ちゃん。ゆっくりでいいんだよ」

『…、ぅぁ…』



いつか栄純君への想いが消えた時は、俺の事も意識してほしいな。
そんな思いを込めて頬に口付けを落とせば、今まで我慢していた思いを吐き出すかのように声をあげて泣き出した。





傷を癒す魔法
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