「わたし、洋一君が好き!世界で一番好き!大好きっ」

もう二度と会えないだろう。そう思って私は一生分の勇気を使って自分の気持ちを口にした。返事が言えない時を狙って押し付けるかのように。ひどく驚いただろう。幼馴染としか思っていなかった私がそんな事を言うのだから。困っているかもしれない。でもどうしても言いたかった。もう二度と会えないなら、最後に言いたかったんだ。ずっとずっと秘めてきた大事な思いを。好きになってもらえなくてもいい、ただそばにいれるならそれでいい。そう思ってたのに、洋一くんはあっさりと私と離れていった。おいていかれてしまった。さみしい、なんて言える立場じゃなくて。泣き顔見せて困らせたくもなくて、ただ一生懸命に耐えて耐えて。ホントは言わないでおこうと思ってたこんなわがまま。けど、最後まであまりに優しい目で見つめるから、あまりに優しい声をするから、愛おしいという気持ちが溢れて止まらなかったんだ。ねぇ、本当に好きだよ
「好きだよ、洋一くん・・・。好きっ・・・・」
その後私は一人嗚呼を漏らし、誰もいない駅で泣いた。これからは洋一くんがいない。その現実がひどく悲しくて、苦しい。会いたいと思ってももう会えない。きっと洋一くんは素敵な人と出会って、いろんな人にしたわれるだろう。優しくてかっこいい彼はすぐに人気者になるだろう。女ここからだってモテモテだろう。いくら怖い顔をしてても本質は誰よりも優しくて温かい人なんだから。それに気づくのが私だけのはずがない。ここで彼に一番身近な存在はわたしだった。だからずっとそばにいれたし、覚えててくれた。けど、この先は違う。彼には新しい人との出会いがあって、新しい世界に入っていく。大好きな野球を介して繋がったものはきっとなによりも丈夫な絆となるだろう。そう。私なんかよりずっとずっと・・・・。
家に帰るとお母さんが優しく出迎えてくれた。告白したんだ。って泣きながら言ったら泣きそうな顔をして優しく抱きしめてくれた。自分の涙より他人の涙を見たほうがより現実味がまして、自分の恋がもう終を告げられているのだとより実感した。ねぇ、こんなに好なのに私は忘れられるのかな?こんなにまだ大好きなのに、いつか違う人を好きになれるのかな?
春になって高校生になった。わたしにも新しい出会いがあって、新しい友達ができた。みんな優しくて大好きだけれど、やっぱりいつまでもとなりにないものを求めてしまっていた。あんな別れ方をしてしまったから後悔をしてるのだろうか。それともまだ心配する気持ちがあるからだろうか。洋一くんは一度友達に裏切られた。あの時どれほど洋一くんが傷ついていたか・・・。忘れはしない。あんな顔。野球ができなくなるってときと同じ顔してた。先輩たちと仲良くやってるかな。大丈夫かな。誰か洋一くんの優しさとかわかってくれたかな?気になり出すと止められなくてとうとう私はネットで調べて青道高校の練習試合を覗きに来てしまった。初めての場所に迷子になるし、いろいろ大変だったけどどうしてももう一度野球をしてる彼が見たかった。ううん、違う。笑ってる洋一くんが見たかったんだ。無邪気な彼を見たかったんだ。一人のバッターがボールを打ち、一気に走る。その走りは、彼のものだ。あれは、洋一くんだ。
「いや〜、やっぱあいつの足はいいな。」
「ああ。レギュラーになってからまた磨きがかかったな」
隣のおじさんの話が聞こえて思わずあの!と声をかける。もちろん驚いた顔をされた。けど、知りたい。彼のことが。彼の努力を。その話、もっと詳しく聞かせてくれませんか?!こんなこと今までの私なら言わなかったし言えなかった。初めてあう全く知らない、つながりもない人に言えるはずなかった。けど、ただただ洋一くんの事を思うと勝手に体と口が動いた。ちょっと勇気が出た。
あれから何度か試合を見に行った。その度にいろんな人が洋一くんのことを教えてくれた。だんだんと知らない人とも話せるようになった。いろんな人と知り合って一緒に応援して、時には泣いて、時には笑って。少しずつ自分が前に進んでいるような感覚になった。ちょっとは変われてるかな。私。ちょっとは強く慣れてるかな?
洋一くんはいつもとても楽しそうだった。もちろん苦しい時もあると思う。けど、けどいつも嬉しそうに笑ってた。先輩たちが引退して最高学年となったときはどこか思いつめた顔をしている時もあったけどやっぱり楽しそうだったと思う。そんな顔を見るととても安心して私も自分のことに色々とがんばれた。大学生になってレポート発表とかもあって緊張したけど洋一くんのことを思い出すと勇気が出た。それからまた時間が経って社会人になってすぐのことだった。会社帰り。先輩と居酒屋さんに飲みに行くことになったときにたまたまついてたテレビに野球の試合が写っていた。そして出てきた打者の名前を解説の人がこうよんだのだ。倉持洋一選手と。まさか。そう思って先輩の話も右から左に聞き流し、テレビに意識の全てを向ける。どくんどくん。心臓がせわしなく動く。そしてピッチャーが4球目を投げた。大きなスウィングでボールが遠くに運ばれる。ホームラン!ホームランです!解説の人が大きな声で力強く興奮したように騒ぎ出す。私はタダその光景を見て涙がこぼれた

ねぇ、洋一くん。ずっと一緒にいてくれる?
・・・お前みたいなのほっとけねーからな。仕方ねぇから俺がずっと面倒見てやるよ
やった!わたしがプロ洋一くんのファン一号だよ!忘れないでね
んな、俺がなれるわけねーだろ。せいぜい社会人野球どまりだって
なれるよ!洋一くんだもん!それでね、プロ初めての試合でホームラン打っちゃうんだ。かっこいいな〜
ったく、仕方ねーな。打ってやるよ。ホームラン。その代わり打ったらお前俺と結婚な
ほんと?絶対に絶対だよ?約束だよ
おう。お前こそ約束忘れんなよ。
ふへへ。忘れるわけないよ!もう絶対忘れない!ずーっと洋一くんが忘れても覚えてるからね!
ほんとかよ。お前ボケてるからな・・・。
えへへ。
褒めてねぇよ!

懐かしい記憶が蘇る。もう君はとなりにいないし、私が彼と結婚することも万が一にもないだろう。あの約束二つは叶えられることはないだろう。だけど・・・・それでも。
「ホームラン、ほんとに打ってくれちゃったよ」
ああ、ほんとに洋一くんはかっこよくて。眩しい。もう随分と時間も経ってなれたはずなのに、となりに君がいないことがこんなにも切ないなんて。


名残惜しいよ、きみが