「今日は何処に行きますか、お姫様」

「……」

「名前?どうした?」


私の彼氏は私に甘い、それももう砂糖多めとかいう可愛いものではなく、砂糖を大量に入れた後蜂蜜を某夢の国のクマのキャラクターよろしくガッツリ瓶ごといっちゃうくらいには甘い。甘過ぎる。友人には、何惚気?舐めてんの?とキレられた。そーじゃない、そーじゃないのだよ友よ!


「もしかして、しんどい?」

「んーん、大丈夫。カフェ行こう」

「カフェでいいのか?ちょっと遠出しても」
「喉渇いたから」

「そっか、ならカフェ行くか」


制服デートに手を絡める恋人繋ぎ、最初は恥ずかしくて堪らなかったのに、当たり前になったのはいつ頃からだったかな。私と俊平は同じ中学出身で、高1の時に俊平に告白されて付き合う様になった。私はチア部で俊平は野球部、お互い忙しいから中々デートをする機会はないし電話やLINEでのやり取りも少ない。だからこそ貴重なお互いのオフ日には、普段してやれない事を少しでも消化していく日なのだと、彼氏様が言っていた。


「名前はこれだろ」

「あ、えっと今日は…」

「あっ、こっち?」

「セットじゃなくて、飲み物だけ」
「今此処でキスするのと、素直に言うのどっちにする?」

「今日はパフェの気分です!」


カフェだけじゃないけど、出掛けるといつも俊平が持ってくれるのが申し訳なくて、余りお金のかからないとこって考えるんだけど…俊平には通じない。前にも同じ事になってまさかこんな人前ではやらないだろうと、嘘を吐いたらガッツリ食べられてしまいそうなぐらいの深いキスをされて、二度と嘘は吐かないとあの時に堅く誓った。あのカフェには未だに入る勇気がないから、もう行くカフェを減らす訳にはいかないというのがかなりの本音だったりする。


「俊平はさ…」

「ん?」

「私を甘やかし過ぎだと思うんだよね」

「全然足りてねーけど?早く一緒に住んで毎日ベタベタに甘やかし捲る生活がしたいくらいだから、今のじゃ足りな過ぎる」

「そんな事されたら私が駄目になる!」

「良いじゃん、俺無しじゃ居られないぐらいに駄目になれよ」


毎回会う度に驚かされるぐらい私を甘やかす目の前にいる野球部エースのせいで、私は段々我が儘になる。俊平はエースなんだから注目されて当たり前で、身長は高いし格好いいし、応援する女子が沢山居るのも仕方がないこと。前の私なら何とも思わなかった筈なのに…今は、それを心から受け入れられない醜い自分がいる。誰も俊平の事を見なくなれば良いのに、俊平の格好良さに気が付かなけば良いのに、なんて有り得ない事を考えてる…


「ん?なに?」

「いや、可愛い表情してるなと思って」

「っ!し、してないよ」

「してるよ、すっげぇ可愛い」


注文したミニ苺パフェを頬張る私の頬を撫でながらジッと私の瞳を見つめる俊平。に居たたまれなくなって逸らしかけた視線は俊平の言葉で止まる。


「好きだよ、名前」

「…知ってる、もん…」


何時もより少し早く食べ終わったパフェ、俊平の頼んだアイスコーヒーはとっくに無くなっていて、私の手に自分のを絡めた俊平は立ち上がった。かなり早めに歩く俊平に珍しいなと思いながら、手を引かれて歩くなんて初めてかもしれないと逞しい背中を見つめる。…もしかしたら、好きなんて言葉だけじゃ足りないってバレてしまったんだろうか。


「…しゅん、ぺい?」

「此処なら誰にも邪魔されない」


俊平の声に顔を上げると其処は俊平の家で、考える暇もなく引っ張られて上がった廊下は静かで誰もいない事を告げている。飲み物持ってくから先部屋行っててと言われて、先に俊平の部屋へ。少し息を吸い込めば俊平の匂いに包まれて、満たされる。俊平は沢山言葉をくれるし、行動でも表してくれる。…でも、もっともっとって願うのは…私の気持ちが俊平が想ってくれてるよりもずっと大きくなってるからなんじゃないかって…。私の方がきっと…俊平にハマってる…。


「そんなとこ突っ立って何やってんだよ」

「っ!は、早いね…」

「そりゃ、名前を一人にはして置けないから。ほら、座れよ」


テーブルに飲み物を置いた俊平に引っ張られると、体勢の崩れた体は俊平の胡座をかいた中へと収まって、捕まえたなんて言う俊平は…ホントあざといと思う。


「お前最近益々可愛さ増してくんだけど」

「っ!き、急に何言って…」

「今日だって好きじゃ物足りないって顔するし、可愛過ぎるだろ。あんま可愛い表情ばっかしてっと食うぞ」


二人っきりになったら直ぐに食べる癖に…と今言いかけた。…危ない。そんな表情してない、と冷たく言ったらお腹に回されていた腕が更に力を増した。耳元で囁くように…

「愛してるよ、誰よりも」

「〜っ!」


抗うように聞こえない…と絶対に分かる嘘を吐く。そうすると耳元で俊平の笑った声と吐息がかかる。愛してる、と囁く度にそれを刻み込む様に耳元、頬、首筋と俊平の熱い唇が落ちる。


「…足りない、もっと…」

「仰せのままに」


無くなってしまわない様に、いつでも俊平の愛に包まれてるんだと実感出来る様にもっともっと…

愛してるって囁いて…