第4回 | ナノ

 とにかく、君は私の視界に一番に飛び込んでくる。たとえば朝教室に入ったとき。授業中に集中が切れたとき。昼休みにご飯を食べているとき。君は私の視界に真っ先に飛び込んできて思考を奪う。最初は、クラスの中に随分大きい人がいて目立つなあ、程度の認識だった。降谷くんはあまり人とつるまないけれど、比較的つるむ小湊くんが小柄なことも起因していたのかもしれない。けれど、だんだんそれだけが理由ではないことに気づいていった。だって私は、君を見ていると体中のすべての機能が制限されて動けなくなってしまうのだ。おかげで人にぶつかるわ、ノートは飛び飛びだわ、友達にお弁当のおかずを食べられるわ、最近の私はいいことが全くない。これも全部君のせいだよ。

 梅雨が終わってみんなが夏服になると、夏の匂いを感じる。梅雨の時期が一番じめっとしてて暑いから、この時期に衣替えをするべきだと思うけれど、ベストや袖を折った長袖が一掃されて白一色になると、夏の眩しい日差しに制服が反射して爽やかだなと思うのだ。それで夏をうんと身近に感じるのだ。だからあのじめじめとした時期を暑苦しい合服で過ごすのも我慢できる。

「ねえねえ、降谷くんは行くの?」
「……なにが?」
「天体観測!」

 席替えをして、運良く隣になったことをいいことに、私は降谷くんに話しかけた。無口で表情もあまり変化しないけれど、一応話しかけたことには返事をしてくれるので悪い人ではないらしい。たまに予想外な方向に剛速球を投げてくることもあるからもしかしたら天然なのかな。可愛いかも。それはさておき、今はこの一大イベントだ。夏の夜空を観測しよう!となんのひねりもないキャッチコピーが踊るプリントは学校主催の天体観測のお知らせだった。毎年天文学部が主催しているらしい。星なんて夏の大三角形とか小学生並みの知識しかないけれど。夏の夜空の下で、なんてなんだかロマンスでも始まりそうじゃない? あと降谷くんの私服も見れる機会だし……! 是非参加していただきたい。そんな邪な感情を抱いて彼に話しかける。

「ああ……どうしようかな。何時からだっけ」
「九時に学校の屋上だって」
「練習終わって片付けも終わってたら、考える」
「降谷くん野球部だったっけ? うちの野球部強いって聞いてたけど、そんな遅くまで練習してるんだ」
「全体練習はそこまで遅くないけど、自主練でたまに」
「へええ」

 すごいねえ、と凡庸な返事しかできなかった。そこで会話が途切れてしまって、なんだかとても寂しくなる。降谷くんはぼうっと窓の方を眺めている。ずっとずっと話していたいのは、伝えたいことと知りたいことがあふれているのは私の方だけなのかな。沈黙を居心地いいと感じるほど、私たちの距離はまだ近づいていなかった。


 天体観測の日はいい天気で、無事決行されることになった。降谷くんが来るかもわからないのに、期待して、普段より気を遣った服装で参加してしまった。参加者の人数はそこまで多くない。期待して一人ひとり確認してみるけれど、やっぱり降谷くんは来ていなかった。屋上からグラウンドの方を覗いてみると明かりがついているので、まだ練習しているのかもしれない。終わったら、来てくれるかな。そんな儚い期待を抱きつつ。

「……すいません、途中からでもいいですか」
「ああ、どうぞ。こちらの方に」

 天文部の人の説明が終わりいざ観測に入ったところでいかにも練習終わりという格好の降谷くんがやってきた。ついでに何人か同じ野球部っぽい人もやってきていた。野球部の人と話すのなら声掛けに行けないなあ、と肩を落としていると、降谷くんは一人離れたところで望遠鏡を手に持った。

「降谷くん、来たんだ」
「うん。ちょっと懐かしくなって」
「よく天体観測していたの」
「うん。あっちにいた頃の幼馴染が好きで、よく連れて行ってもらった。今日は何かの流星群だからってはしゃいだメールが来て、それで懐かしくなって」
「……そうなんだ」

 ――その幼馴染って、女の子?
 よほど言ってしまいそうだったけど、言ったら残酷な真実を知ってしまいそうで問いかけることは出来なかった。だって、わかるよ。女の勘って鋭いんだもん。そんな優しそうな表情見たことないよ。降谷くんが屋上に来たとき、私と話したからかなって少し期待してたのに。私がどんなに降谷くんを一番最初に見つけても、降谷くんの視界にはもう別の女の子が映っているだね。

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