第4回 | ナノ

その強い眼差しに憧れた。
どんな剛腕ピッチャーにも、凄腕ピッチャーにも恐れない、あの強い眼差しに。頼りになる四番で部長。そんな彼に視線を向けられているチームのみんなが羨ましくってたまらなかった。けど私は、

「名前?」
「…ごめん、今行く」

席を立って、他校の友人に付いていく。きっと、彼の視線は私に交わることはない。けれど、憧れる気持ちだけは、持ってても罰は当たらないよね。私は少しだけ球場の方を振り返り、先ほどまで結城先輩がいた打席を見る。

「…カッコよかったね」
「ホント!御幸くんカッコよすぎ!」

また惚れ直しちゃった!と惚気を連発する友人に、腹ただしく思う。

「本当、御幸くん好きだね」
「当たり前!あんなに素敵な彼氏他にいないよ!」

『名前も早く見つけなよー』なんて言う友人に、殺意を覚えたり。なんなのさ、私だって青春したいよ!そう思いながら、『あーはいはい、そうだねー』と軽く流す。確かに御幸くんのあの塁に人がいたときのヒット率は凄いと思う。でもさ、でもさ。

「結城先輩の方がすごいと思うな」

そうボソッと言えば、友人には聞こえていなかったようで、『何か言った?』と言われるが、『ううん』と言って着いていった。そして青道の選手が帰りの支度をしているところに入って行く友人。御幸くんを私に紹介してくれるそう。なぜか、御幸くんが私に会いたがっているそうで、彼女は私に『一也カッコいいからって取らないでよね?』と一言言いながらも、御幸くんを呼びに行った。彼女は青道の生徒だから、行っても別にあれなんだけど、私の場合は違うから。だから私は遠目に見ようと少し離れた場所から座って見ていた。すると、

「…君は、何組の生徒だ?」
「え?」

そう声を掛けられ、声が発せられた上を見れば、―――結城先輩だった。私は憧れていたその姿が目の前にいることに混乱してしまい、

「…よっ、4組…です」

と答えてしまった。4組は4組でも、私は学校が違う。なのに私は混乱していて。すると、

「名前、連れて来たよ…って」

私のこの何とも言えない現状に、ニヤニヤしだす友人。助けてほしいのにこれは助けてもらえれる感じじゃなさそうだ。すると、友人が連れて来ていた彼氏である御幸くんが、

「あれ、どうされたんすか、哲さん?」

とまたニヤニヤとして言う。何、このカップル。そう思いながら私は居たたまれない気持ちになって、俯く。すると、いろんな青道の選手たちがぞろぞろと集まってきて。何、何、この状況!戸惑っていれば、

「男を見せろや!キャプテン!」

何て言う始末。確かあれは3番の伊佐敷先輩。何、何が始まるの?!

「単刀直入に言うが、」
「すっ、すみません!私青道の生徒じゃないのに見に来ちゃって!」

と結城先輩が言ったと同時に私も言って。友人以外の周りの人たちは『は?』と言う表情で。

「青道じゃない?」
「は、はい」

『よかったね、哲。だから見つからなかったんだよ』とピンクの頭の人が言う。見つからなかったって何が?誰を?

「名前、まず自己紹介したら?」

という友人の言葉に、私は『成宮名前、稲城実業の2年です』と言えば、皆唖然としていた。終いには、『名前は稲実の成宮くんのイトコでーす!』なんて言う始末だ。彼氏である御幸くんも、『何で言わなかったんだよ』と友人に言っている所を見れば、きっと友人も今の今まで私のことを言わないでくれていたのだろう。ああ、もう。これで試合見に行けなくなっちゃう。そう思いながら私は結城先輩に謝れば、

「付き合ってほしい」

と。今の話聞いていたのだろうか。そう思うほど唐突に言われて、私の頭はさらに混乱する。すると、

「君が哲さんを見てたように、哲さんもずっと君のことを見てたぜ?」

と御幸くんがに言ってくれて。私は、私も。きっともう、こうして会える機会なんてないから。『私も結城先輩が好きです』と。そう言えば、ヒュー!なんて周りから冷やかされ、祝福され、私は結城先輩に抱き締められる。結城先輩からは、汗と土のにおいがして。それでも、幸せだった。

今、憧れていた眼差しは柔らかく、優しく、私に向けられている。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -