初めて結婚を意識したのは、何気なく選局したバラエティ番組で新婚の芸人が夫婦喧嘩をネタに面白おかしくトークしているのを観た時だった。喧嘩は絶えないけど毎日幸せです。周りの出演者に惚気やがってと頭をはたかれる彼はだらしなく頬を緩めていた。
結婚、結婚かぁ。俺も早く結婚して子供が欲しい。男の子でも女の子でも野球が好きな子を育てよう。意識するようになると頭の中は毎日そればかりで、次第にプロポーズはいつどのタイミングでどんな言葉をと考えるようになった。思い切って飲みに誘った倉持先輩に相談すると、やっとお前もそういうことちゃんと考えれるようになったんだなと笑いながら肩を叩かれた。俺が欲しいのはためになるアドバイス!んなもん知らねぇよ自分で考えろ。テメーの人生だしな。その日は結局激励の言葉を貰っただけで、いつもと変わらず野球の話ばかりしてお開きになった。
しばらくしてもピンとくるものはなくて、結婚は近付くどころかどんどん遠退いていっているような気がしてならない。うやむやなまま時間が過ぎていった。


「栄純、最近なんか変じゃない?」
「変?どこがだよ」
「妙にそわそわしてるというか…珍しく何か考え事してるでしょ」
「お、おおう?な、何言っているんだね君は!俺はいたって普通だ!」

夕食後、アイスを食いつつテレビを観ていると怪訝な面持ちで探りを入れられた。危ない危ない、ここは冷静な対応で回避!名前には嘘や隠し事をしてもいつもすぐにばれてしまうのだ。女の勘というやつは恐ろしく良く当たる。ここは慎重にいこう。一世一代のプロポーズ、台無しにするわけにはいかねぇ!

「やっぱり何か怪しい。浮気って訳でもなさそうだし…」
「それはぜってぇない」
「じゃあ何?欲しいものでもあるの?」
「欲しいものつーか何つーか…。金じゃ買えないもん、かな」

名前の人生まるごと俺に下さい。ずっと俺の隣で笑っていて欲しい。二人で温かい家庭を作りたい。俺のお嫁さんになって下さい。苗字を一緒にしませんか。毎日お前の飯を食いたい。世界中の誰よりも幸せにする。俺と、結婚して下さい。
どの言葉だと伝わるだろう。どの思いを伝えればいいんだろう。一人の人間の人生を背負うということがこんなにも勇気のいることだとは思わなかった。思えば馬鹿で不器用な自分を側で支えてくれていたのはいつも名前だった。彼女のことを考える時間が増えて、今までどれだけ甘えていたのかが良く分かった。これからは俺が守っていきたい。幸せにしてやりたい。この先もずっと二人一緒がいい。

「ねぇ、私、栄純が言おうとしてること今分かった気がする」
「え…?」
「すぐ顔に出るんだもん。それにもう長いこと君の彼女やってますからね。彼女っていうより寧ろ家族の域だよ」

名前の言葉はある意味プロポーズともとれるものだった。ニッと歯を見せて笑う彼女はどう?正解でしょう?とでもいうような得意気な顔をしてみせた。それで気が付いた。お互い口に出さずとも初めから気持ちは同じだったようだ。やはり彼女に隠し事は通用しない。なんだよこれ、あーでもないこーでもないって考えまくってた俺バカみてぇじゃん。適わねぇなぁ。好きだなぁ。
両腕を一杯に広げ、全力の笑顔で名前の全てを受け入れると示した。俺に捕まったら一生離してなんかやらなからな。
「結婚しよーぜ!」

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