「おい、ドルヲタ」

 大学を卒業して早数年、大学時代からひとり暮らしを始めた秀明の部屋は某アイドルグッツの山になり私はその無差別に部屋にやってきた人々を歓迎するような笑みのポスターにため息を吐き出す。

「掃除しろなよ」
「綺麗だろ部屋は」
「壁にゴミついてんぞー」
「ポスター剥がすなよ!!!」

頭をすごい勢いで叩かれて痛い! って言ったら自分でやったくせに申し訳なさそうな顔をするから東条はすごいバカだ。私はポスターを剥がしかけていた手を止めて東条に向き合い「正座して」と東条に言うと東条は至って真面目な顔で床に正座をしようとしたから慌ててそこらにあった座布団を東条に投げ渡した。

「将来、どうすんの」
「社会人野球に……」
「そっちじゃない!」

今度は私が東条を蹴飛ばしてやろうと足を伸ばしたけれどすぐに引っ込めた。どう蹴ればいいかわからないのは高校の時から変わってなくて、もし怪我をしたらと思って私はいつも東条を蹴り上げられないでいる。金丸とか沢村とかとはあんな容易にふざけあえたのに。

「いつまでドルヲタやってるかって聞いたんだよ」
「もう死ぬまで愛したい!」
「アイドルは東条のこと愛してないし!」
「ファンのみんなを平等に愛してくれてるよ!!」

クッソ意味わかんないし第一気持ち悪いわ。金丸の「お前……ホントどんまい」っていう時の顔が私の脳裏に浮かんだから腹が立つ。アイツマジでさ、付き合うって言った時も似たような顔して「ああ……お疲れ」とか言いやがったんだよな、忘れねえぞ金丸。

「真面目に、ドルヲタ卒業とか考えてないの?」
「名称がもっかい変わるか、無期限活動停止になったら考える」
「最低じゃねえか。そうなったら逆に愛してやるのが筋だろ」

流石わかってる!! と東条が立ち上がった。東条の背景はそのアイドルのポスターだから私は笑えず、最低天井に貼ったのだけ剥がしてくんないかなあと思いながら東条に冷めた目線を送り続けたけれどきっと東条は気づかないのだろう。

「もし、私がドルヲタ辞めなきゃ別れるって言ったらどうするの」
「……」
「即答しろよドルヲタやめるってさ!!」

我ながら嫌になってくる。もう今日は頭を冷やすために一旦帰るしかあるまい。はあ、と大きく肩で溜息をついて適当に荷物を纏める。東条はそこでようやく「あ、名前ちょっと待って」と私を引き止めたけれど私はこれ以上東条の顔を見ていると本気で別れるとか口走りそうだったから待たなかった。

「ホントにちょっと待てって」
「別に怒ってないから。一旦帰る」

また日を改めるから、って言って東条を見る。「邪魔しました」ちょっと冷たくそう言ったのに東条は私の鞄を握って「待ってよ」と言ってから握った鞄抱きかかえた。私じゃなくて鞄を抱きかかえるところが東条らしい。話を聞かない限り返さないということなのだろう。いや、案外返さないと帰さないを東条なりにかけたギャグのつもりかもしれない。

「俺と結婚して!!」

私は足を止めて、東条を見た。鞄を未だに大事そうに抱きかかえている。その背景にもアイドルのポスターがあるからアイドルと変に目が合って私は苦笑いを浮かべた。今、このタイミングでいうことかよ。

「東条……空気読め」
「本当にはこの後予約しておいたレストランで言おうと思ってた」
「……」
「俺と、結婚してください」

私が剥がそうとしていた赤いアイドルのポスターが東条の肩越しに笑ってた。そのアイドルにほら早く言いなよって急かされているような気になって、私は履きかけのヒールを脱ぎ捨てて東条に駆け寄った。

「愛してる!」

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -