「もしもし」

「おー、俺」

「俺ってだれ」

「るっせ、分かんだろ」

ちょっと久しぶりの電話、いつもこんな始まり方。あたしは千葉、洋一は東京。昔から家がご近所で一緒に遊んでいた幼馴染みで、中学までは一緒だった。あたしは地元の高校、洋一は青道に行ってしまった。今まで家も近くて頻繁に遊んでいたあたし達は電話なんて数えるくらいしかした事がなかった。メールとかはまあ、していたのだけれども。こんな風に電話をしだしたのは洋一があっちに行ってから。
洋一はあたしに隠し事なんかしないと思ってた。彼の志望校調査票はぐしゃぐしゃにされていた。あたしは聞いても教えてくれないと思ってたし、聞かなかった。心のどっかではあたしだけには教えてくれるんじゃないかって、希望はあったのに。それは卒業式後に発覚した。あたしが友達と遊びの約束してて、家を出たら近くに大きな引っ越しのトラックが停まっているのを見て、心臓がどくんと跳ねた。そんな、嘘だ、なんて自分に言い聞かせたけど、そのトラックが停まっているのは、洋一の家の前だった。ちょうどあたしが立ち止まっていると洋一も中から荷物を持ってやってきた。洋一どこ行くの、あたしの出した声はひどく小さくて、消え入りそうだった。そこで彼がどこに行くのか聞かされたあたしは怒ったし、泣いたりもしたが、彼は小さくごめん、と言った。

「最近どうなの」

「んー調子はいいな、」

「そっか」

「あ、」

「何?」

「今度の休み、試合あっからよ、見に来てくれよ」

洋一があっちに行ってから、電話をよくするようになったし、連絡も前より頻繁にとっている。それは洋一なりのあたしに対しての罪滅ぼしかなんかのつもりなのだろうか。

「今度の休みの日?まあ行けるけど」

「ヒャハ、俺の成長っぷりを見とけよ」

「はいはい、」

「もうちょっと、待ってくれよ」

洋一は、ずるいと思う。あたしは洋一が好きだし、あっちもたぶんわたしが好き。でも告白するとか付き合うとか、そういうのがないのは。一度だけ、洋一が引っ越しする日にあたしが言おうとしたら、洋一に待ってろって言われた。この、待っててっていうのはそれからずっと使われる。洋一、いつまで待てば良いのって言ったらいつも、あとちょっと、だって。電話を切って、枕に顔を埋める。思い浮かべるのは、いつも笑顔の洋一の顔。

ああ、やっぱあたし重症だわ。





瞼を閉じてもあなたが消えない

(この微妙な距離感が、いつももどかしいの)
(もう待ってなんて言わないでよ




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