好きな人が出来ました。



隣のクラスとの合同授業で、プリントを回してもらった時のたった「はい、これ」の一言で好きになりました。一目惚れというやつです。しかし、私はクラスでも地味で友達もいないような人間です。内気だし、人と喋ることすら苦手です。そんな私ですが、その人の為ならば変わろうと思ったのです。
彼の隣に並べるような女の子に近づくために、まずは髪を切りました。腰まで隠れる長い黒髪を、肩が少し隠れるくらいまで切って色もほんのり明るくなる程度の茶色ですが、染めてもみました。いつも俯きがちな視線を前に向けるようにしていたら、自然と姿勢も良くなりました。会釈しかしなかった挨拶も、声をしっかり出してするようになりました。最初のうちは声も震えて裏返ったりもしましたが、繰り返すうちにはっきり出来るようになりました。すると、お友達が出来ました。苗字さん、最近明るくなったね、と周りから言われるようになり、お弁当も一緒に食べるお友達が出来ました。一緒にお弁当を食べるようになったお友達にお化粧を教えてもらいました。最初は手が震えるし目に入るしで全然上手く出来ませんでしたが、根気良くみんなが教えてくれたのでいまでは時間はかかるものの、一通りできるようになりました。


ここまで変わるのに一年かかってしまいました。今日から二年生になります。クラス替えの貼り紙の前でうーんと背伸びをしますが、全然見えません。
「仕方ない…」
覚悟を決めた私は人に押されながらも前へ前へ進みます。時折肘が刺さったりもしましたが、なんとか先頭へ出ることが出来ました。
「(わたしは…)」
苗字 名前、の文字列は2年B組の並びに書かれていました。それを確認したわたしは、人混みを抜けて新しい教室を目指します。新しい教室にはもう既に何人か人がおり、わたしも自分の席を探します。わたしの席は窓側から三列目の後ろから二番目でした。この位置は先生から見やすいらしいので、少し憂鬱です。はあ、と溜息を吐いたときに後ろから前のクラスメイトのあいちゃんが話しかけてくれました。どうやら、彼女とはクラスが離れてしまったらしく、たまたま溜息を吐いたわたしが廊下から見えて話しかけてくれたのだとか。ありがとう、とお礼を言うとまた遊びに来るからと言ってくれました。彼女はそのまま自分の教室へ向かってしまい、わたしはまた一人になりました。
「(ちょっぴり寂しいな…)」
いや、しかしここで落ち込んではいられません。今年こそ、彼に話しかけるのです。結局昨年は自分磨きだけで終わってしまい、なんのモーションもとれませんでした。今年こそは頑張るぞ!
「(そういえば彼のクラスは何処だろう)」
自分のクラスを見るので精一杯だったので、さっきは彼のクラスを確認することが出来ませんでした。まずは彼がどのクラスか調べるところから始めなければ。
HRが始まる五分前にもなると教室内は騒がしくなっています。わたしも左隣の女の子としゃべって時間が来るのを待っています。隣の席の唯ちゃんは野球部のマネージャーらしく、今日も朝練の後に来たのだとか。お疲れ様です、なんて話しているとわたしの右隣の席の人が来たらしく、そちら側も騒がしくなりました。
「あ!倉持くんと御幸くん、一緒のクラスなんだね!」
「(くらもちくん…!?)」
唯ちゃんはわたしの右隣に座った人へそう声をかけました。わたしの聞き違いでしょうか、いえ、間違いなくくらもちくんはわたしの隣に座っています。
「(どどどどうしよう!)」
まさか、これから頑張ってアプローチをかけようと思った相手が隣だなんて。神様は意地悪なのか優しいのかよくわからないです。
「夏川も同じクラスか」
「宿題よろしくな!」
「ばーか!自分でやりなよ!」
わたしを挟んで三人は会話をしています。その様子をきょろきょろ首を振りながら見ていたら、くらもちくんがわたしに向かって話しかけてくれたのです。
「俺、倉持。よろしくな!」
「よろ、よろしくお願いします!苗字 名前でしゅ!」

思いっきり噛んでしまった!

「名前でしゅって!もー!可愛いなあ!」
「ゆゆゆ唯ちゃん!」
「顔が真っ赤だぜ?苗字ちゃん、俺は御幸な。よろしく」
「よろしくお願いします…」
もうだめだ、恥ずかしすぎる。いくらなんでもこの噛みかたはなしでしょう。倉持くんはわたしの気持ちなんて知らないので、ただの変人に見られてしまったかもしれません。これでは、告白なんてもう無理です。こんなやつに告白されるなんて倉持くんは迷惑に思って、
「…おう、知ってるぜ。隣のクラスだったよな!思ってたより面白いやつだな、おまえ!」
「うぇ!?」
キラキラ見える倉持くんは笑顔で、どうやらまだ大丈夫のようです。変な人には見られていないようです。そう思うと安心して肩の力が抜けました。
「く、倉持くん!」
「あ?」
「お付き合いを前提にお友達からお願いします!」
まずは第一歩前進です!



「って、懐かしいよなぁ。あの時の二人といったら!」
「御幸ウゼェから黙れっつの!」
「御幸くん!もうやめて!」
「おーおーご両人、お顔が真っ赤ですよー?」
「まさかの始業式の日からカップル誕生だからねぇ、ていうかよくもつよね名前。野球ばっかりの倉持くんに呆れたりしないの?」
「そ、そんなことないよ!野球やってる洋一くんかっこいいもん…」
「だってさ、よ・う・い・ち・く・ん?」
「御幸しねやあああ!」




「「!?」」
「!?あ、ああ!いえ、その、あの!間違えました!ごめんなさい!わ、忘れて…!」
「じゃあ、一週間友達やろーぜ」
「え?」
「一応な!もしかしたら、お互いイメージと違うかもしれないだろ?」
また、キラキラの笑顔を倉持くんは向けてくれました。
こうして、わたしと彼は一週間だけお友達でした。
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