「あたしは、野球が好きな一也が好きだな」

だから、恋人らしいことが出来なくても構わない。あたしが一也を好きで、一也があたしを好きでいてくれたら、いまは、いいかな。そう思う。

「欲がないな」
「は?」
「俺なんか、あれこれしたいの我慢してんのに」
「1メートルくらい離れてくれる?」

こうして他愛ない会話ができる時間をあたしは、すごく大切に思う。一也なりに、部活で会えない時間を埋めようとしてくれてるのがわかるから。

「んー…1つわがままを言うなら」
「何だよ、あるんじゃん」
「嬉しそうだね。嫌じゃないの?」
「彼氏なのに何も求められない方が嫌だろ」

びっくりして瞬きを繰り返す。むず痒くも嬉しい感覚が体を駆け巡って、落ち着かない。さらっと言えちゃうんだなあ、一也は。

「この際どーんと言ってみろよ」
「別に、そんなに大したことじゃないんだけど…」
「? なんだよ」
「手を、繋ぎたい」

一也に好きだと言われて、あたしも一也が好きだって返したあのときと、同じくらい緊張している。ふざけあいではなくて、でも変な意味でもなくて。好きな人に触れたいと思う気持ちを言葉にするのは、こんなにもドキドキするのか。

「…………」
「ええと、」
「お前ってそんな可愛いこと言う奴だったか?熱でもあんの?」
「ちょ、ちょっと」

額に触れた手さえ、何だか気恥ずかしい。たがだか手を繋ぎたいと言うだけで、何なんだろう。小学生にもできることなのに。

「ほら」
「……いいの?」
「手繋いだくらいで妊娠したとか、ガキみたいなこと言わねーなら」
「一言余計だ」

机の影で、こっそり繋いでみる。何だか安心した。自分よりも大きくて、逞しい手。守られているような。

「ずいぶん嬉しそうだな」
「うれしい、よ」
「俺のお願い事はいつ叶えてくれんの」
「そっ!れは、また、心の準備が出来てからにしてもらえると…」

嫌だと思ってるわけじゃない。ただ、急に大人びてしまうように思えて、戸惑うだけ。周りは皆、普通にしていることなのかもしれないけど。

「はっはっは、顔真っ赤!」
「だって!」
「急かす気も、無理矢理するつもりもねーから、ゆっくり考えろ」

ああ、もう。
こういうところが、たまらなく好きだ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -