今だけ、このままで。 | ナノ



二年。されど二年。
その差は一生埋まらないのだ。

「俺、何で二年早く生まれなかったんだろうな」

屋上でベル坊に昼のミルクをやりながら、ぽつりと呟いた。聞いていたのは幼馴染みだけで、食べかけていた弁当の卵焼きを弁当箱に落としてしまった。

「男鹿、何があったんだ?何か悪いもんでも食ったのか?」
「いや、何でもない独り言だ。忘れろ」
「恋でもしたのか?」

何でも色恋に結びつけるのはこの幼馴染みの悪い癖だ。でもそれは今回に限り間違ってはいない。この感情は何だと聞かれたら、恋だ、と答えるしかない。
それくらい、焦がれていた。

「あぁ、そうかもな」

神崎一、という男に。
古市はその答えに三年の誰だ、何組の人だ、美人なのか、名前を教えろ、ていうか今から顔を見に行こうなどと次々に言ったが、全部昼寝のフリでスルーした。いくら悪魔の存在を受け入れたこいつでも、さすがに男相手に恋をしたなんて受け入れられるとは思わなかった。
五限はサボる、と言うと古市は何も言わずに屋上からいなくなった。少し暑くなってきた最近は屋上には誰もいない。ベル坊も食後の昼寝で静かだ。

「神崎……」

何故、神崎なのか?
きっかけなんか自分でもわからない。ただ、目が無意識に学内であいつを探している。同じ教室でも、廊下でも、いないとわかっている今でも。
ごろん、と固いタイルに寝転がる。背中が痛いけど頭を冷やすには十分だった。

「なんだ、テメェだけか」
「! 神崎?」

上から声が聞こえてきた。校舎とを繋ぐドアの上、給水タンクの横に人影が見える。梯子階段を使わずに飛び降りてきたそれはまさしく今、恋い焦がれている人物。
首をコキコキ鳴らしているところを見ると、寝ていたらしかった。そう言えば四限から教室にいなかった。たまに姿が見えなくなると思ったら、あんなところで寝ていたのか。

「神崎“さん”だろうが。何かブツブツ聞こえると思ったら、お前らだったのか」
「ずっと寝てたのか」
「あぁ、夜あんま寝てなくてな」

と言いながら欠伸を噛み殺す。そしてフェンスにもたれてまた寝てしまった。何をしてたんだ、昨夜。
でもまぁ、

「今は見てられるだけで、いいかも」

手を伸ばすのは少しだけ我慢しよう。せめて名前で呼んでくれるまで。
そのまま眠り続ける神崎の寝顔をずっと眺めていた。




(今だけ、このままで。)



switch様の男神祭にこっそり参加。

ヘタレオーガと神崎くんが好きです。



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