▽眠りの症例:1
「好きにすればいい」
あの日、吐き捨てるように告げられた。
私たちはそれによって残酷な「自由」を得た。
引き千切られた首輪の鎖を必死に繕いながら、あの方の声を辿った。
「望む場所に行き、思うがままに振る舞い、勝手に生きろ」
あの方の最後の言葉だった。
そっと閉ざされていく世界を、死に物狂いで抉じ開けるように足掻いた。
――明確なきっかけはわからない。ただ、あの日から次第に弱っていったことは手に取るようにわかった。
動くことが減り、食事の量が減り、眠っている時間が増えた。
まるで自ら命を擦り減らすように体は痩せていき、ただでさえ細い肢体からは生気が抜け落ちていった。
「食べてください」
「目を覚ましてください」
「話してください」
繋ぎとめるように言葉を紡いでいく。あの方は虚ろな目で私たちを見るばかりだった。
眠る時間がどんどん増えていく。
瞼は固く閉ざされたまま、開かない。
そしてあの方は、ついに目覚めなくなってしまった。
ただ呼吸のために上下する胸が、生きている証だった。
呼吸をするだけの抜け殻。
あの方は、もう何もなされない。
「でも、生きてるんだろ」
ボクは、とうさんが目覚めるのを待つよ。
あの人は、死んだように眠るあの方を見つめてそう呟いた。
give us your answer
before we lost you.
(20120711)