▽夢を見る人々



It is not over




私たちには父も母もおりません。
私たちは愛も安らぎも、ましてや絆さえも持ち合わせてはおりません。
しかし今日を生き延び、明日を迎えるために必要なことものは知っておりました。

私たちに夢や希望などという、約束された未来はありません。
私たちにこの手を引き、道を印してくれる安全基地などありません。
しかし「明日」という不確定で未知なものが、意志に関係なく平等に訪れることは知っておりました。

私たちは「明日」を生き延びなければなりません。
私たちは生きなければなりません。
私たちは、生きたいのです。

「願うのならば、生き延びればいい」

明日を求めて宙を掻く手を、あの人は掴み取ってくださいました。
その大きく骨ばった冷たい手を、私たちは覚えています。
その手に引かれ、明日を約束された日を覚えています。
――それはまるで、「父」のように。
私たちはそれぞれ「愛」の役割と「平和」の役割を当てられました。愛も平和も知らない私たちに、それらを持ち合わせてはいない私たちに、まるでそうする権利を与えるように、あの人は与えてくださいました。
しかしあの人は私たちが「父」と呼ぶことを許してはくれませんでした。
髪の色が違うからでしょうか。瞳の色が違うからでしょうか。同じ名前を持たないからでしょうか。
あの人が「父」と呼ぶことを許したのは、最後にここにきた「弟」だけです。

「弟」はあの人のお気に入りでした。あの人の夢を成し遂げる要でした。あの人と同じ色の髪を持っていました。あの人にも私にも、彼らにもないモノを持っていました。あの子は私たちからあの人を奪い、しかしあの人に疎まれ、愛され、拒絶され、許容され、二律背反に押し潰されながら育ちました。そうして磨り減った精神に、「王」という肉付けをすることで呼吸をしていました。

王は惑ってはなりません。

しかし惑ってしまったのが原因なのでしょうか。
そうして総てが終わった日に、私たちは失いました。

1度目は「王」を。
2度目は「父」を。

お父様。
ここであなたをそう呼ぶことを許してください。
お父様。
ただ巧くなかったのです。
あなたが私たちを怨もうと、世界を拒絶しようと、あの子を疎ましく思おうと、あなたは小さく弱い、人間に過ぎないのです。
あなたは、ご自身が「生きている」を忘れてしまっていた。
その手に世界が掌握できるはずがないのです。

お父様。
でもあなたが差し伸べてくれた手を、私たちが忘れることは決してないのでしょう。





(20120725)





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