▼少年の告白


両親は私が中学にあがる前に離婚しました。
いえ、私に物心がついたときから家族が揃うなどなかったので、特に衝撃はありません。第一父と母が並んで笑っている姿など見たことがないのです。互いに無関心で、会話らしい会話など家にはありませんでした。稀に口を開けば罵声の浴びせ合いが始まり、決まって母が家を出て行くのです。こんな生活がよく十年以上続いたと、感心してしまうほどでした。ここまで来てしまうと、互いに浮気していることなどわかりきっていたでしょうに。
思えば離婚しないほうが不自然だったのです。

ただ私には、一つだけ腑に落ちない点があるのです。

今の私の父は、きっと本当の父親ではありません。

目の色も髪の色も、顔立ちもまるで似ていないのです。髪は母のものと似ていますので、あの女性は間違いなく私の母なのでしょうけど。ですがどこをどう探しても、私は父親には似ていないのです。
しかし母の浮気相手と私の目の色は同じでした。私は気付いてしまいました。
浅ましい話です。
私は今まで血の繋がりのない他人を父親と思い込んでいたのですから。だというのに母は私を引き取るのを面倒に思い、ここに残していったのです。

ただもっと馬鹿馬鹿しいことに、父だと思っていた男は母と離婚した途端、貯金を酒やギャンブルや遊びに使い出しました。今はもうほとんどないのではないでしょうか。たまに見知らぬ女性を家に連れ込んで、金銭を貢いでもらっているような姿も見ます。そうして生活を維持しているのです。私自身、そのようなことに関心はないので、特に構わないのですが。

問題は父が最近連れてくる女たちでした。夜中に自堕落な男の家に上がり込んで、ふしだらな行為に及ぶような女が学校の教諭だというのです。呆れたと言えば、呆れたのでしょう。ですが更に馬鹿げたことに、あの女はそれを私に要求したのです。私の学費も全て、代わりに出してくれるというのが条件でした。私はもちろん、そのような低俗なことに対してなど、嫌悪以外の何も持っていません。
しかしあの女はそう答えた途端に、金を出すのを止めてしまいました。父は借金を重ね、意味もなく苛立っては私に暴力を振るったと思います。体のいたるところに痣ができてしまい、私は無意識に人目を避けるようになりました。そして、再びあの女が訪れた日。

――仕方なかったのです。
そうしなければ、子供である私は生きてはいけないのです。吐き気に耐え嫌悪感を抱え、しかし彼女は確かに金を出してくれました。
皮肉なことに、私が進学した先の中学の教諭だったのです。

今でもそれはごく当たり前のように続いています。不快でたまりませんが、なんとか生活も成り立っています。不憫かもしれません。しかし不遇ではありません。

生きてさえいられるのなら私は構わないのです。私は生きたいのです。

だから、危険分子は消さなければなりません。例えばそう、今日欠席だったあの男。彼は先日の一件で、私を羽交い締めにしました。それだけではありません。私は知っているのです。彼が先頭に立って私たちに野蛮な行いを働いていることも。女子の数名が貴女に対して嫌がらせをするのも、彼がけしかけているからですよ。だから彼は危険なのです。貴女にとっても、私にとっても。

だったら私が、手を打てばいい。安心してください。偶然夜道で会ったので、ただちょっとズバットの超音波を浴びせただけです。その後のことは不幸でしたね。しかしこれで当分私たちは安全です。何も心配はいりません。
ああ、でも……。いえ、何でもありません。それではまた明日。何かあったら、また電話します。



▼コールドゲーム

翌日、昨日屋上で一悶着があった女子生徒の内一人が、欠席しました。担任の話では体調不良だそうです。しかし彼女の友人たちが言うには、事故に遭ったそうでした。
何でも街に迷い込んだ野生のズバットに襲われ、逃げていた矢先に車に引かれたそうです。

「不運な話ですね」

ランス君はビリジアンの瞳を鬱蒼と細め、微かに笑いました。






20101031




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