▼少年Lのこと

私は、いえ、私たちはまだ十四歳です。
教室にいる人間は、誕生日による差はあっても、それ以上の年齢の差はありません。
少なくとも私はそう思ってました。
もしかしたら何か事情があって留年したのかもしれない。
そうも思ったのですが、私が確認した限りでは、やはりランス君は同い年でした。

あの日、偶然見てしまった、と言うより、知ってしまったでしょうか。
その事実が頭に纏わりついて離れません。
それに反してランス君はまるで何事もなかったかのように過ごしています。
もしかしたら、あれが初めてだとかそういうのではなかったのかもしれません。
私は授業中も前の背中が気になって集中できませんでした。

廊下を歩きながら、たまにA先生にもすれ違います。
そのたびに、あの時はあまり聞こえなかったあの声が、明瞭なまでに脳内で再生されました。
ただ不幸中の幸いにも、私はA先生が担当になってる教科はなかったのです。

しかし二人の姿を見るたびに、私の心臓はジリジリと焼かれていくようでした。


でも、それからひと月くらい経った頃でしょうか。
ある日突然、友人の一人が私に尋ねたのです。

「ねえ、あのランス君と一緒に帰ったことあるの?」

体温が一気に下がった気がしました。
もちろんそんなことは一度たりともありません。
しかしあの日の夜のことが脳裏をよぎったのです。

あの日は二人でいました。
それはこのクラスという小さな社会では、恐ろしくおかしなことなのです。
私は焦りました。
奇異の目で見られることの恐怖に、不必要なまでの否定を示しました。
友人は特に興味もないように返事をし、しかしどこか怪しげに笑っていました。

嫌な予感がしてならない私は、今まで以上に彼に関わらないようにしました。
もとよりそんなことしなくたって関わらないのに、そうしようとすることで、私は精神をすり減らしていったのです。




▼少女の懺悔

しかし嫌な予感は的中してしまいました。
一週間ほど経ってから、友人たちが私を避けるようになったのです。
クラス内もどことなく雰囲気が変わっていたように思います。
話したこともないクラスのメンバーが、何故か私をチラっと見ては何かを囁きあっていました。

嗚呼、終わった。

私はそう感じました。
それからまた一週間経つころには、クラスの人間のほとんどが、私に冷えた視線を送るようになっていたのです。
友人もその頃に私から完全に離れていました。

私は、一人になりました。

しかし誰にも何も言えなくて、ひたすら沈黙を守って学校に通っていたと思います。
幸い物を隠されるとかいたずらされることはありませんでした。
それに、ちょうどその時期に親からポケモンをもらっていたのです。
ムウマでした。
学校にもこっそり連れて行っていたので、寂しさには耐えられたのです。

しかしそれから更に一週間経った頃でしょうか。
体育祭が近付き、クラス単位で放課後まで残るようになった頃です。

その時既に私とランス君はクラスでは異分子でした。
寂しさだとか、悲しさにはだいぶ慣れていましたが。
しかし競技を決める時です。
担任の先生は職員会議で教室にはいません。
そこで女子の競技でチームを組むものがあり、それがきっかけになりました。

クラスの中心的存在だった男子の言葉です。

「お前ら仲良いのに、一緒に出られないなんて可哀想だな」

笑い声が沸き上がりました。
お前ら≠ニは、私とランス君のことでしょう。
心臓が飛び跳ねて、胃が締め付けられるようでした。
しかし必死にそれを表に出すまいと私は俯き続けました。
ランス君はもともと気にしないようなので、何ともないのでしょう。

ですが次の瞬間、反応が詰まらなかったのか、男子の何人か、体が大きい人たちが、突然ランス君を羽交い締めにして立たせました。
大きな物音がしたので、飛び上がるように驚きました。
それでもランス君は相変わらずの無表情で、羽交い締めにしている男子を一瞥するだけです。

それに私は不安になりました。
そしてそれを合図にするかのように、私もまた羽交い締めにされ椅子から引きずりおろされたのです。
混乱と恐怖のあまり、頭が真っ白になりました。

クラスの何人かが、仲良しだとか、仲間だとか叫んでいます。
クラスの誰かが、楽しそうに何かを言っています。
騒然とした教室の中で、私は頭を掴まれ引きずられました。

気付くとランス君の顔が目の前にあります。

誰かが楽しそうに、何か単語を叫んでいました。
その単語が、今から私がさせられようとしていることでしょうか。
私は暴れて抵抗しました。
しかし私を押さえつけてるのは男子なのか、ビクともしません。

目の前には彼の顔があります。
頭を押されて、唇が当たりました。

女子から、何が楽しいのか、悲鳴のような笑い声が沸き上がりました。

同時に解放された私は、支えを失い、立つ気力も失い、その場に倒れ込みました。
笑い声が聞こえます。
視界が滲んで、瞼が焼けるように熱を持ちました。
ポケットに忍ばせてあるボールからムウマを出して、滅びの歌でも使ってしまえば良かったです。

それから次第に溢れてくる涙に、嗚咽が重なります。
うつ伏せに倒れたまま、何度もえずきそうになりました。
しかし誰も助けてくれません。
投げやりな気持ちになり、私はボールを出そうとしました。

その時に突然、肩を抱えられ、立ち上がらされたのです。
驚きのあまり肩を支えてくれる人物を見ました。
ビリジアンの瞳と目が合い、何故か余計に涙が溢れます。

ランス君は私の荷物を無造作に持っては、私を連れて教室の外へと出ました。





20100629




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