いつ部屋に戻ったのだったか。
ふと、そんな疑問がそっと芽を出す。
四肢に鉛を詰められたような気怠さが意識の片隅に燻る。
緩慢な動作で上体を起こす。
……そういえば、今は何時だろう。
寝ていたのか。眠っていたのか。
部屋の中は薄暗い。
夜明け前だろうか。
いや、寝ていたのなら、それなりに時間が経過しているはずだ。
では、サソリさんと会話したのはいつのことだろう。
あれは夜中だったはずだ。
部屋に戻った記憶がない。
サソリさんと話して、彼が去って、私はひとりで水面を見ていた。
水面に映る自分を見ていた。
たぶん、そうだ。
水面に映るのは私だ。
あれは私の顔のはずだった。
風に煽られ歪んだ水面が蠢いたのを覚えている。
私の顔が消えたのを覚えている。
私の顔が。

耳の奥で、胎動のような耳鳴りがごうごうと鳴っていた。




大蛇丸さんと約束していたことを思い出したのは、昼下がりに通路ですれ違った時だった。
あ、と声をあげた私に、隣を歩いていたイタチくんがピタリと足を止める。……おそらくイタチくんがトビさんからお目付け役に選ばれたのだろう。
対し大蛇丸さんはまるで何事もなかったかのように私を一瞥して通りすぎていった。
遠ざかる背中に一瞬イタチくんにどんな言い訳をしようかと考える。
しかし疚しいことがあるわけではないのだから、そんなことを考える必要などないはずだ。
一瞬躊躇うように俯いた後、「ごめんね」と自分でも理由のわからない謝罪を口にして踵を返した。
イタチ君が一瞬だけ表情を変えたように思えたが、それを黙殺して小走りに大蛇丸さんの背中を追う。
しかしその背中は廊下の角を曲がると同時に消えた。
どこに行ってしまったのだろう。
私が忘れていたせいで、気を悪くさせてしまっただろうか。
だがよくよく考えてみれば、待ち合わせる時間は指定されてなかった。
……いや、そういえば湖の畔が場所として指定されていた。
そこに行ってみよう。




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