▽彼らの道行き

「元気そうで何よりだよ」

パソコン越しにそう言った友人に、ただ笑顔で頷いた。久しぶりにポケモンセンターを訪れた目的というのはこれだ。地方を跨いでこうして連絡できるのだから、文明の利器というのは本当に欠かせない。パソコン自体に触れるのも久しぶり過ぎて使い勝手に困ったが、ジョーイさんの手助けもあり何とか連絡したい相手に繋ぐことができた。正直、その相手である友人はよく各地をふらふらしているので連絡が取れるのも運次第だった。しかし今日は運が良かったらしく、パソコンの画面に映る友人の青い瞳は昔と変わらず穏やかな笑みを含んでいる。

「そういえばラルトスは? 元気にしてるかい?」

ふとしたように口を開いた彼に、もちろんと答えると勝手にボールからラルトスが出てきた。そして友人が映っているパソコンの画面を食い入るように見詰める。この子はもともと彼が私のために捕まえてくれたポケモンだった。そう考えると、やはり私以上に彼の方に気持ちが傾きがちになるのだろう。画面に映るように抱き上げてみせれば、ラルトスは小さく鳴いた。それに彼は嬉しそうに笑う。
それにつられて目を細めて、次いで話の本題に入ろうとラルトスを抱え直した。

「それで、今日は話があって」
「何かあったのかい?」
「いや、私、もうしばらくジョウトにいようと思うんだ」

当分ホウエンには帰らない。そう付け足せば、彼は親には連絡したのかと首を傾げる。特別驚いた様子もなかった。相変わらず理解が早いというか、変なところで情緒がない。そう思いながらも親には夜連絡する予定だと返した。昼間は仕事で連絡が取れないことが多いから。

「それに、今戻ったら、後悔するから」
「……」

もう少し。もう少しだけあの人といたい。せめて、あの人が前を向いて先に進めるような姿を見たいのだ。あんな悲しい笑顔ではなく、心から笑える日が来るのを私は見届けたい。これがわがままだというのはわかってる。しかし先日病室で見た女性とジュペッタを思い出すと、時間がきたからと言って途中で投げ出すように帰ってしまうのは違うと思う。あの人たちは、信じて疑わなかった明日をいとも簡単に切り取られたのだ。あの人があの日姿を現したのを思うと、私はやはりこんな中途半端な気持ちでここを去るわけにはいかない。

「大切な人ができたんだね」
「別にそんな大それたことじゃないよ」
「そう? てっきり恋でもしたのかなって」
「からかわないで」
「ははっ。じゃあそろそろ切ろうか。君に迎えが来てるよ」
「!」

画面の向こう側から私の背後を彼は指差す。それにつられて振り返れば、愛嬌のある大きな赤い瞳がこちらにフワフワと近寄ってきた。ゲンガー、とその名を口にすると、その子は嬉しそうに笑う。そして私の腕を掴んでは引っ張った。

「それじゃあツユキ、しっかりやるんだよ」
「うん」
「後で時間を見つけて、僕もそっちに遊びにいくから」
「案内なら任せてよ」
「うん、今日は嬉しかった。頑張るんだよ」
「わかってるよ、ダイゴ」

もう一度互いに笑って、パソコンの接続を切る。プツンと音を立てて黒く染まった画面を見届けて、思わず息を吐き出した。

「行こうか」

腕を引っ張るゲンガーに笑いかけて、ポケモンセンターを出る。外ではミナキさんが待っていた。二人で途中花屋に寄って、菖蒲の花を購入した。
向かう場所は一つだ。嬉しそうに前を進んでいくゲンガーに笑みをこぼした。


今日はマツバさんの退院の日だ。






/end
20100311
修正20130109




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