死ンダ。
死ンダラシイ。
シ、シシ死ン
死ンダ、死ンダ。
アノ子、死、ンダヨ。
まつばノオ気ニ入リ。
可哀相。可哀想。
青行灯ガ、連レテッタ。

キキ。
キキキ。
鬼哭。
まつばガ泣イタ。
泣イタ。哭イタ。
鬼哭ダ。




グシャリと、耳を塞ぎたくなるような嫌な音が響いた。餓鬼が甲高い悲鳴を上げる。手のひらにどろりした感触が余韻した。その不快感に、背筋に悪寒が走る。込み上げてきた吐き気に眉をひそめた。握り潰した餓鬼の残骸が、ザラザラと塵になって霧散する。それを無関心に一瞥して、そばにいたもう1匹の餓鬼に、楊枝を突き刺した。金属が擦れるような悲鳴が響く。

「マツバ」
「……ああ、ミナキ君」

不意に背後からかかる声に、ゆるりと首を背後に回す。喪服に身を包んだ彼が、沈痛な面持ちで佇んでいた。目が充血している。瞼も僅かに腫れていた。それを一瞥して、僕は傍らにあるお盆に乗ったお茶を手に取る。冷め切ったそれは、口内を苦味で満たしては体内を冷やした。

――いつも通り。
縁側のいつもの位置に、彼女が大好きな和菓子とお茶を用意して、僕は定位置に座り込む。2つある湯呑みのうち、一向に減る気配のない、彼女の分。お盆を挟んで隣にいるはずの人が、そこにはいない。

「御焼香、させていただいてきた」
「ふうん……」
「マツバ、お前」
「ああ、最近、餓鬼たちが五月蠅いんだ」
「……」
「さっきも、昨日も、彼女が来なくなってから前みたいに五月蠅いんだよ」
「マツバ、彼女は」
「いつになったら、来てくれるんだろう」
「……!」

視線を膝に落とす。膝の上には、彼女がそうしていたように、ジュペッタが座っていた。ジュペッタの手には、真っ白な封筒が握られている。何度も読み返したそれには、小さな皺が入っていた。

「マツバ、しっかりしろ」
「ジュペッタだって、待っているんだよ」
「!」
「なのに、なんでだ?」

――ねえ、一体にどこに隠れているんだい。

いつも通り。
いつものように縁側で、お茶とお菓子をお盆に乗せて用意して、いつもの定位置に座り込む。
お茶を用意したよ。
君が大好きなお菓子も用意したんだ。
君の場所だって取ってあるよ。
君の場所は、ちゃんとここにあるんだよ。
だから出ておいでよ。
僕は怒ってないから、だから出ておいで。
隠れてないで、会いにおいでよ。
出て、きてよ。


「しっかりしてくれ、彼女は、もう……」
「どうして……」
「……」
「僕は、会いたいだけなんだ」
「マツバ」
「お化けでもいいから」
「……!」
「幽霊でもいいから、会いたいだけなんだ」

凩が容赦なく肌を突き刺し体温を奪っていく。
葉が落ちた裸木と、氷が張った池だけの色褪せた中庭が目の前に横たわっている。寂れた空間を視界に映し、嗚咽を噛み殺した。

「……」

膝の上にいるジュペッタが、悲しげに鳴き声を上げる。その頭をそっと撫でては、その子が持つ封筒を受け取った。
綺麗に折り畳まれた便箋を取り出す。それをゆっくりと丁寧に開く。視界には、綺麗な文字の羅列が映る。それを目で追ったのは、何度になるのだろうか。



熱を持ち、滲んだ視界に僕は呼吸の仕方を忘れる。






20110108




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