私とは直接的な繋がりはなかった。ただ、祖母同士の仲が良かったのだと思う。訃報をいただいたのは5日ほど前だった。祖母の友人が亡くなった。
そしてまるでその後を追うように、私の祖母もまた息を引き取った。


「明日の夜に、通夜で、明後日が告別式になるみたいです……」
「そっか」

2時間ほど前、私とマツバさんは街外れの茂みでペルシアンの遺体を見つけた。ペルシアンは祖母が若い頃から飼っていたと聞いた。よく考えれば、ずいぶんと長いこと生きていたのだ。老衰だと思って間違いないのだろう。
そしてその20分後に、祖母が息を引き取ったという連絡が入ったのだ。

病院の待合室のソファーに座る私の向かいにマツバさんは座っている。母は葬儀の手続きや親戚への連絡で、先ほどからせわしなく動いていた。

「謝っていたんだと思う」
「!」

不意に口を開いたマツバさんに、弾かれるように顔を上げた。彼はどこか寂しげに笑って、私に視線を向ける。

「本当は、もっと早く言うべきだと思っていたんだけど、彼女≠ェ……ね」
「? 何の話ですか?」
「君が見た白い着物の女の子の話だよ」

言いながら、マツバさんはポケットから写真を取り出した。それは昨日、私がマツバさんに貸したものだ。

「あの女の子は、君のおばあさんだった」
「!?」
「たぶん、僕の祖母の葬儀に来たかったんだろうね」

差し出された写真を受け取る。
……写真の少女は、着物の少女より年が上だが、確かに顔が一致した。
途端に何か、言いようのない虚しさが込み上げくる。

「ペルシアンもきっと、入院した君のおばあさんに会いたくて、毎日出歩いていたんだ。そのうち君のおばあさんがカラダを離れて外を歩き回っていたのを見かけて、追いかけていたんだろう。そして、見つけた」
「……」
「また昔のように、ペルシアンは願っていた。また、君のおばあさんと遊びたいと。そしてそれが叶った。カラダを離れて子供になった君のおばあさんと一緒に遊んでいた。誰も来ない、穏やかな場所で。でも、君が突然現れて驚いてしまった」
「! それじゃあ、あの時の、怪我は……」
「故意じゃなかったんだ。だから謝りたくて、君に薬草を持ってきたんだよ」
「……!」

瞼の裏に、熱が集中する。同時に、今まで怖がっていた自分がひどく情けなくなった。視界が滲み、唇を噛み締める。バッグに入った薬草を思うと、無性に泣きたくなった。両手に持った写真を握りしめ、身を縮める。

「伝えたいことを伝えるのは、難しい」
「……」
「でも、今の君に伝わったのなら」
「……」
「僕は、報われると思うよ」

堰を切ったように、頭の奥から言いようのない寂寥感が溢れ出てくる。飽和した感情が瞼から零れ落ちた。呼吸が引きつる。服の袖で目元を拭うが、どうにも涙は止まらなかった。嗚咽を噛み殺しながら、膝を抱えた。
向かいにいたマツバさんが私の隣にやってきて、しゃくりあげている私の背中をさすってくれた。





祖母の葬儀も、やはり段取り通り行われ、静かに終わった。ただ、納骨の際にはペルシアンも一緒に埋葬させてもらった。ペルシアンはずっと祖母の側にいたのだ。せめて、同じ場所で眠らせてあげたい。手を合わせ、ただひたすら冥福を祈った。

葬儀を終えた私は、それまでのお礼を兼ねて、マツバさんのもとへ和菓子を持参して訪れた。もちろんマツバさんも葬儀には参列してくれた。だが、私は両親の手伝いでほとんど会話をする機会がなかったのだ。葬儀の帰りということもあり、喪服姿なのだが、和菓子を渡すだけだし、大丈夫だろう。
記憶を辿りながら道を進み、大きな和風建築の屋敷の前に立つ。玄関の前に立ち、インターホンを鳴らすと、少しの間をおいてマツバさんが現れた。
……喪服の上着を脱いだワイシャツ姿のマツバさんに、少しだけ違和感や新鮮さを感じた。

「ツユキさん……」
「突然すみません。あの、これ、お世話になったお礼に」
「!」

言いながら差し出すと、彼は目を丸くする。そして小さく笑っては「いいのかい?」と首を傾げた。

「はい。お世話になりましたから。本当にありがとうございました」
「お礼なんて。それに何かあったら、またいつでも頼ってくれていいんだよ」
「!」
「元はといえば、僕のせいもあるからね」
「え?」
「いや、それより、せっかくだから上がって。お茶で良ければ飲んでいってよ」
「そんな、ご馳走になるわけには……」
「いいから」

笑顔で言う彼に、断る言葉が思い付かずに俯く。すると壁をすり抜け、ゲンガーが現れた。ゲンガーにやや強引に腕を引かれながら中へと入る。
その時に背後から猫の鳴き声や子供の笑い声が響いた。



振り返ると、着物姿の女の子とペルシアンが、楽しそうにどこかへ走っていった。








20110224




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