I imitation human being,but it is poor.




どうか、私を生み直して欲しい。
再び胚に戻り
全てが始まる前に戻り
あの温かな海底に沈んでいきたいのだ。

もう一度、あなたに会いたいのだ。




人間とは、彫刻だ。

画家であった祖父の言葉だった。
私たちひとりひとりは木や、金属、石といった様々な素材だ。
環境や周囲の人間、経験といった外部から与えられる刺激によって、私たちはその形を彫り出され、刻まれていく。
様々な経験や人間関係、環境によって人格や価値観を彫り刻まれていくのだ。
不要な部分は削がれ、必要とされれば深く彫り込まれる。
それは躾、道徳、倫理や社会といった枠に収まるようにうまい具合に施される。
もちろん全てが巧くいくわけではない。
当たり前のように、何処かしらに綻びが生まれる。
そういった不自然な部分を隠そうとするあまり、より不恰好になることもあるかもしれない。
それはもしかしたら親から子へのドライバーかもしれないし、人生の脚本かしれない。
幼い頃――まだ心が柔らかい頃、刻んでしまえば一生居座り続けるレリーフもあるだろう。

なら、私は。
色とりどりの絵に囲まれそっと思案する。
私の人生とは、なんだったのだろう。
握り締めたパレットナイフを見詰めた。
テーブルの上に散らばった手紙が、冷たい沈黙を孕んでいる。
縋るようにそのうちの一通を手に取り、息を吐いた。
――それはまるで、彫った際に溢れる木屑のようなものではないのだろうか。
いつの間にか出来た不自然さを取り繕うために、いったいどれほど手を尽くしただろう。
そしてそのどれもが失敗だったとしたら、私はまさしく駄作そのものではないのだろうか。
絵の具は色を混ぜすぎれば黒に還る、木材は彫れば元に戻すことはできない、水を多く含んだ筆で描けばカンバスがふやける。
取り繕うために行ってきた全ては、空回りだったのだ。
何処で間違えたのか。
何時綻んだのか。
それを正すために、何をすれば良かったのか。
引き返すことも、やり直すことも、修繕も、そのまま突き進むことすらできやしない。
ただ其処で、動くこともできずに佇むことしかできない。
――失望されることも、厭きられてしまうことも、誰の関心も引けないことも、疎まれることを恐れて他人の目に怯えることも、そんなつまらない自分も、全てが厭でたまらない。

人間が彫刻ならば、私には才能もセンスもなかったということだろう。
現実が彫った自己嫌悪も、環境が刻んだ卑屈さも、周囲の人間に刷り込まれた無力感も、全て、私があまりに生きるのが下手だったからだろう。
現実を前に、これ以上彫るものも刻むものも磨くものもない。
素材としてすら、私は使い物にならない。
全くの駄作だった。

意味もなく掲げたパレットナイフが嗤うように鈍く光る。
朝から降り続けている雨は、依然としてその雨足を弱めない。
冷たく湿った空気を、薄暗さごと吸い込み目を閉ざした。
深海のような暗闇を眼窩に抱え、手に持つ刃物を床に放り投げた。
乾いた音が飛び散る。
シミのようなに広がっていく感情に、息を吐いた。

なんだか、ひどく――死んでしまいたい。

こんな駄目な人間に生まれたかった訳じゃない。
掻き毟りたくなるような自己嫌悪に、誰もいない空間で荒々しく息を吐き出した。
やり場のない怒りが、雨音に塗り潰されていった。


価値がないなら、意味がないなら、必要とされないなら、誰の目線にも触れないなら、雑踏に淘汰されるだけなら。





20130307




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