▽ゼロの戒律


向けられる疎外の目には慣れていた。

嫌悪や侮蔑に満ち満ちた視線、嘲笑や憎悪が籠もった言葉、罵詈雑言。酷い言葉。残酷な言葉。それらは心臓に降り積もって層を重ねていく。心臓は分厚くなっていく。己を守るため、分厚くなった心臓を殻にして閉じこもった。耳を塞ぎ目を閉じ口を閉ざす。それでも、何度でも言葉は私を刺し殺す。心臓に降り積もる。殻が更に分厚くなる。子供の頃はその繰り返しだった。

生まれが悪かったのか。タイミングが悪かったのか。13という忌み数に生まれた私に居場所はなかった。
孤絶された世界は無色だ。
生まれは独り、生きるのも独り、なら、死ぬのも独りだろう。
添い遂げるはずの伴侶は、彼女とよく似た湖面の瞳の子供を残し亡くなった。その子供すら拒絶した私には何もない。手元には、何ひとつ残っていない。


――おもむろに瞼を開くと、眼前には海が広がっていた。途方のない蒼に沈んだ海原は、その内に太古の墓場を抱えてひたすら沈黙している。
空は鉛色の雲が蓋をし、数刻前から雪を降らせていた。
凍り付いた世界はただ冷たく、陰鬱な色のみを着飾っている。
海。鉛色の空。雪。無色の世界。
子供の頃、屋敷の窓から見ていた景色だ。

――なら、ここは屋敷なのだろうか。

戻ってきたのかもしれない。冷えた風が頬を掠める。呪われた血の象徴たる萌葱の髪が揺れた。

懐から銀色の指輪を取り出し、指に嵌める。少し、痩せたのだろうか。どうにもサイズが合わない。ただ鈍く光るそれは、何の飾り気もないリングだった。
苦笑しながらドアを開ける。



そして私は、窓から吊された縄に首をかけた。







20110320
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