※気持ち悪い話です。







Nはヒトとして不完全ではありましたが、ハルモニアのニンゲンとしては完璧でした。

彼らはより濃い血を欲していました。かつてイッシュを統べた王と同等の血を求めたのです。
しかしヒトとはより強い遺伝子を遺すため、できるだけ自分とは違うモノをつがいに選びます。我々もそうです。ですがそれでは血が薄れてしまう。それを一部の血族は恐れました。
だが、近親婚では確実に血族の人口は減ってしまいます。血が断絶してしまう。ですから彼らは、血族を幾つかの集団に区切り、ある特定の世帯に近親婚を強要させました。
おかげでハルモニアの血は薄くなる代わり広がり、しかし一部の家系には濃く残っています。
……ああ、ややこしいので、前者は分家、後者は本家とでも呼びましょう。

もちろん、無闇に血族の血を外に出すのも彼らは嫌っていました。近親婚を強要されずに子孫を遺してきた分家にも、ある一定の規約があったのです。それは曾孫の代で、本家の人間との子を成すことでした。薄くなり始めた血を、濃くする、とでも言いましょうか。
実際には、本家の人間との結婚以外にもあったのですが……、いえ、これはそのうちわかるでしょう。

血を濃く遺す、となると、ある問題が生まれます。それは生態的に弱い子供が生まれてしまうと言うことです。現に本家には奇形児ばかり生まれました。
ふふ、よく分かりましたね。そうですよ。私の右目は生まれつきありません。私はその本家の人間です。奇形児です。父と母は兄妹でした。私は近親婚によって生まれた人間です。
また、私自身にあてがわれた女も、私の姉に当たる人間でした。
行為など所詮儀式です。そう受け入れてしまえば、耐えられましょう。Nはそうして生まれた子供でした。しかし珍しいことに肉体の欠損がなかったのです。血族はたいそう喜びました。これこそ完璧な血の形。完成品だと。

Nはハルモニアの血を濃く継いだニンゲンでした。私もまた、忌まわしき悪習により血を濃く継いだニンゲンです。Nは確かに彼らの言うとおり、ハルモニアとしては完璧なニンゲンだったでしょう。

しかしヒトとしてはあまりに不完全なのです。何年経っても体も心も成長しません。15年経って、やっと5歳児の体になったのです。それが、代償だったのでしょうか。
私は焦りました。同時に、解決口を見つけたのです。「ふしぎなアメ」を知っていますか。ポケモンを強制的に成長させる道具です。ええ、それをNに与えました。
すると驚くほど早く、彼の体は成長したのです。たった3年で、5歳児同様の幼児の体は十代後半の青年の姿になりました。彼はそこまでしてやっと、ヒトのふりができたのです。

おや、顔色が悪いですね。遠慮などせず、そこに座ってください。

……ええ、そして私はそこに絶望しました。私はヒトの子供が欲しかった。強要された行為であっても、生まれてくるであろう子供には僅かな望みを抱いていたのです。
私がたとえヒトとして欠損した存在でも、子供にはそのような境遇に遭わせたくなかった。

ですから、そう、貴女ならと。貴女は私にとって完璧なヒトでした。肉体に欠損はなく、感情に欠落もない。私の理想なのです。
ああ、そう身構えなくとも、貴女を抱こうなどと思ってはいませんよ。あれはあくまで血を遺すための行為でしょう。私は私の血を遺したくはありませんから。ただ、貴女の血を持った子供が見てみたいのです。

……そうですね。貴女は確かにハルモニアの血族ではありません。
ですが心配はありません。ハルモニアの血の起源をご存知ですか?
シンオウという遠くの地には、古い文献が多くあります。各地を旅している貴女なら、知っているでしょう。
そう、ミオの図書館、でしたか。
驚きましたよ。まさかそんなところに史実が残っていようとは。さすが、神話を重んずる地だ。

その図書館にある、とある文献にはこう記されています。『かつて人とポケモンはつがいになり、子を成していた』と。
ここまで話せばわかりますか。ハルモニアの起源はそうして生まれたヒトでもポケモンでもない子供です。
ですから、ハルモニアの血の起源と同じものは、今でも作れるのです。ただ、子を孕む側が人間の女ではなくてはなりません。

どうしたのですか。紅茶が残っていますね。ああ、冷めてしまったのですね。温め直しましょうか。

……帰る?
何故?
Nにも、まだ会ってはいないでしょう?
あの子が待ってます。
せめて少しくらい遊び相手になってやってください。
昨日ダーツを与えたのですが、遊び方が分からないようです。部屋のアートパネルや床に矢が突き刺さっていました。よろしかったら教えてやってください。
ふふ、怖がる必要はありませんよ。心配しなくとも、失敗はしません。
痛みもないでしょう。生まれてくるのがヒトか卵かはわかりかねますが……。
逃げる必要も怯える必要もまるでありません。

私は貴女をとても特別な存在だと思っています。なら、貴女が造る命の糧はとても美しいのでしょう。
ですから是非ともその命の形をハルモニアの血の起源として見たいのです。




「ここから出して」



膨らんでいく腹に頬を寄せ、男は己の理想に恍惚とする


※ハルモニアに関しては勝手な考察と捏造です。

20110304
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